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『指導力アップ! 糖尿病性腎症重症化予防のための支援テキスト』デモ

本ページは『指導力アップ! 糖尿病性腎症重症化予防のための支援テキスト』のデモページです。

 

1 糖尿病はこんな病気!

 

糖尿病は,わが国で1000万人以上が患っていると推定される病気です。糖尿病は全身の多くの臓器に障害を起こす可能性があり,発症前あるいは発症早期での対応が非常に重要な疾患です。発症早期であれば,生活習慣の改善や減量のみで糖尿病状態ではなくなる(「寛解」と言います)こともあります。したがって,糖尿病を発症させない,あるいは悪化させないという点で,生活習慣指導などの保健指導は大変重要な意味を有します。

糖尿病は,インスリンの作用が障害されることによって,高血糖が起こる病気です。では,「インスリンの作用が障害される」とはどういうことでしょうか?糖尿病と診断された患者さんの体内では,①インスリンの分泌が低下している,②肝臓や筋肉でのインスリンの効果が減弱している(インスリン抵抗性),あるいは①と②の両者が起こっていると考えられます。これが「インスリンの作用が障害される」ということです(図1)。つまり,インスリンの分泌と末梢組織(筋肉や肝臓など)でのインスリン利用のバランスが崩れて高血糖が惹起されると考えられます。

インスリンは,肝臓,脂肪組織,筋肉などに作用し,主にブドウ糖の細胞への取り込みに作用します。インスリンの作用が低下すると,ブドウ糖がエネルギーとして有効に活用できないため,代わりに脂肪組織から遊離脂肪酸が血中に放出されてエネルギー源になります。また,肝臓でのケトン体産生が増加します。インスリン作用が著明に減少した場合に起こるケトアシドーシスで,高ケトン血症が起こるのはこの結果です。

「糖尿病は治らない」と説明していませんか?
「糖尿病は治らない」と説明していませんか? 最近では,糖尿病は「寛解」することが多く報告されています。糖尿病発症の早い時期から治療や療養に取り組めば,糖尿病は「寛解」することをぜひ伝えて下さい。

バンティング氏と世界糖尿病デー
インスリンは,1921年にカナダのバンティング氏とベスト氏によって発見されました。バンティング氏(外科医)の誕生日は11月14日で,この日が今では「世界糖尿病デー」に制定されています。

ケトアシドーシス予防にシックデー対応
ケトアシドーシスは,主に1型 糖尿病でしばしばみられる糖 尿病合併症です。ケトアシドーシスを予防するためには,特に「シックデー」(後述)の対応が重要です。

2 高血糖が起こるとどうなる?

高血糖は,インスリンが不足しているか,インスリンがあっても十分に効いていない場合に起こります。血糖値がかなり高くなった場合には,口渇,多飲,多尿,体重減少などの症状が出現しますが,多くの糖尿病患者さんでは,高血糖があっても症状はほぼありません。高血糖は自覚症状を起こさないことが多い点に注意が必要です。

糖尿病は自覚症状に乏しい
糖尿病は自覚症状を起こしにくい病気であることを,常に念頭に置いて保健指導を行って下さい。

3 インスリン抵抗性とは?

糖尿病の教科書などに「インスリン抵抗性」という言葉がよく出てきます。インスリン抵抗性とは,インスリンが分泌されているにもかかわらず,インスリンが働きにくい状態になっていることを指します(図1)。インスリン抵抗性があると高血糖が起こりますが,インスリンは正常あるいは過剰に分泌されているのです。そのため,高血糖が「インスリン分泌が低下していることが主体か」あるいは「インスリン抵抗性が主体か」を考えながら対応する必要があります。2型糖尿病では,特に初期には,インスリン抵抗性によって血糖が上昇している場合が多いと言われています。

早朝空腹時には血中インスリンは少なめになっているはずですが,血中インスリンが15μU/mL以上の場合はインスリン抵抗性があると考えます。また,肥満(特に内臓脂肪が多い肥満)がある場合には,インスリン抵抗性があると推定されます。

4 糖尿病の種類

糖尿病は大きく①1型糖尿病,②2型糖尿病,③その他の特定の機序,疾患による糖尿病,④妊娠糖尿病に分類されます。

1型糖尿病

1型糖尿病は,膵臓のβ細胞(インスリンを分泌する細胞)が免疫の影響などで破壊され,インスリン分泌が欠乏することにより起こる糖尿病です。1型糖尿病では,糖尿病の家族内発症は多くなく,肥満とは関連がありません。1型糖尿病は,抗GAD抗体などの自己抗体(膵島関連自己抗体)が陽性になることが多い糖尿病です。発症は,小児期から思春期に多いですが,中高年のこともあります。通常は急速に発症することが多い糖尿病ですが,中にはインスリン分泌がゆるやかに低下する1型糖尿病(緩徐進行1型糖尿病)もあります。また,通常の1型糖尿病よりもさらに急激に発症する1型糖尿病(劇症1型糖尿病)もあり,この場合は高血糖症状が発現してから早期(通常は1週間程度)にケトアシドーシスなどを生じます。劇症1型糖尿病は,あまりにも急激に発症するため,血糖値が高いにもかかわらず,HbA1cがさほど高くないことに留意する必要があります。

最近は,がん治療薬である免疫チェックポイント阻害薬で1型糖尿病が発症することが報告されていますので,この薬剤を投与されている場合には糖尿病発症に注意する必要があります。

緩徐進行1型糖尿病の見わけ方
緩徐進行1型糖尿病は進行がゆるやかであるため,2型糖尿病に間違われる場合があります。緩徐進行1型糖尿病では抗GAD抗体が陽性になることが多いため,初診の糖尿病患者さんでは抗GAD抗体をチェックすることが多いです。

HbA1cと血糖値の乖離
HbA1cは1〜2カ月間の血糖値を反映します。したがって,血糖値が急激に高くなった場合にはHbA1cが上昇せず,血糖値とHbA1cの値に乖離がみられます。

2型糖尿病

2型糖尿病は,みなさんが最もよく遭遇する糖尿病です。インスリン抵抗性(中にはインスリン分泌が低下する場合もあります)が主因で高血糖が起こります。家系内に糖尿病例が存在することが多く,遺伝的影響が示唆されます。肥満を合併することが多いですが,特に日本人ではさほど肥満でなくても2型糖尿病を発症することがあります。通常は40歳以上で発症しますが,最近はそれより若年での発症が増えています。2型糖尿病は,生活習慣の影響が最も大きい糖尿病と考えられます。

2型糖尿病の病期と病態変化
2型糖尿病は,発症初期にはインスリン抵抗性が高血糖の主因であることが多いですが,長い経過でインスリン分泌がしだいに低下する場合があります。

その他の特定の機序,疾患による糖尿病

1型あるいは2型糖尿病以外に,まれな遺伝子異常,薬剤や膵臓疾患で起こる糖尿病があります。膵臓癌で膵臓を切除した場合,慢性膵炎でインスリン分泌が低下した場合,ステロイドの影響で血糖値が高くなった場合,などがあります。

妊娠糖尿病

妊娠中に初めて発見,または発症した,糖尿病には至っていない糖代謝異常のことを妊娠糖尿病と言います。「糖尿病には至っていないのに」なぜ糖尿病と呼ぶのでしょうか?これは,妊娠という特殊な環境に関連があります。妊娠時の高血糖は,非妊娠時の糖尿病の基準を満たしていなくても児の発育異常(特に,過剰発育)などに関連し,周産期リスクが上昇することが報告されています。したがって,妊娠糖尿病では,通常の糖尿病より軽い状態でも「妊娠糖尿病」と呼ぶ診断基準が設定されています。多くの妊娠糖尿病は妊娠が終了すると元に戻ります。しかし油断はできません。妊娠糖尿病と診断された方は,その後何年もたってから新たに糖尿病と診断される場合が多いと言われていますので,妊娠後も定期的に健康診断などを受診して,知らぬ間に糖尿病になっていないかをチェックする必要があります。

5 糖尿病になるとどんな症状がでるの?

患者さんに必ずお伝え頂きたいことは,「糖尿病には症状がないこと」です。糖尿病になると,食べているのに痩せる,尿がたくさん出る,などの症状があり,そのような症状がないから大丈夫と思っている方が多くいます。このような症状がでるのは,糖尿病がかなり悪化してからです。ほとんどの場合には,糖尿病は無症状と考えて下さい。

糖尿病の症状がでる場合,高血糖による症状と合併症による症状にわけられます。高血糖による症状は,血糖管理がかなり悪い場合に出現します。また,合併症による症状は,糖尿病を患って長い期間がたつと出現する場合が多いです。したがって,糖尿病になった初期で,血糖値がさほど高くなければ,糖尿病になっていても症状がないのです。以下に,①高血糖による症状と,②合併症による症状について述べます。

高血糖による症状

血糖値が急激に上昇して著明な高血糖になると,ケトアシドーシスや高浸透圧血糖状態が起こります。これらは重篤な病態であり,患者あるいは家族が救急要請するような重い症状(意識障害,腹痛,嘔気・嘔吐,強い全身倦怠感など)を伴います。

さほど急激ではない血糖上昇が起こり,それが慢性的に続く場合には,口渇,多尿,多飲,体重減少や倦怠感などの症状が出現します。これらは,糖尿病治療中に血糖コントロールが悪化した場合にも出現します。特に患者が感じやすい症状は,口渇と多尿です。血糖値がかなり高い状態が続くと,これらに加えて体重減少が起こります。

合併症による症状

糖尿病合併症による症状には,大血管症による症状(大血管障害)と細小血管症による症状(細小血管障害)があります(図2)。

大血管症による症状:大血管症は,脳,心臓,下肢動脈でしばしば起こります。脳に関連する症状は,上肢・下肢の一過性のしびれ・動かしにくさ,ろれつが回りにくい,などがあります。これらは一時的な場合がありますが,脳卒中(脳梗塞など)を発症すると不可逆的になり,麻痺などが起こる場合もあります。

心臓関連の症状では,胸痛,息切れ,などが起こります。特に,今までできていたこと(近所に買い物に行く,家の階段を上るなど)ができにくくなったり,歩行が遅くなったり(同年代の周りの人についていけない)することもありますので,問診でこれらを確認することが重要です。心筋梗塞は急な胸痛で発症することが多いですが,糖尿病を長く患うと胸痛なしに心筋梗塞を起こすことがあります。

下肢動脈の症状は,「間欠性跛行(はこう)」と言われる症状が有名です。ある一定の距離を歩くと足がだるくなる,痛くなるなどの症状が出現し,休むとまた歩けるという症状です。今まで娘さんと同じように歩けていたのに,しだいに遅れるようになる,などが症状の場合もあります。また,足が冷たい,色が悪いなどの症状がある場合もあります。このような症状があると末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)が疑われます。

細小血管症による症状:神経障害,網膜症,腎症として出現します。神経障害は,ほぼ必ずと言っていいほど,足の先から始まります(上肢の症状は細小血管症による神経障害が原因である可能性は低いです)。「足の先がしびれる・痛む」「足の裏に薄皮が張っているような気がする」「硬い地面を歩いているのに,布団の上を歩いているようなフワフワした感じがする」などの訴えが多いです。

網膜症での注意点は,視力が良い・悪いは網膜症と必ずしも関係しないことです。視力が低下すると眼科を受診する場合が多いのですが,視力が良くても網膜症がある場合がありますので,定期的な眼科受診を勧めて下さい。

腎症はこれら細小血管症の中で最も症状がでにくい合併症です。よほど腎障害が進まない限り,むくんだり,体がだるくなったりするといった症状はでません。「腎症は症状がない」と考え,定期的な尿検査(検尿や微量アルブミン尿検査)や血液検査を勧めて下さい。

6 どのような場合に糖尿病になりやすい?

保健指導,特に糖尿病発症予防の保健指導を行う場合には,対象者にどの程度,糖尿病発症のリスクがあるのかを理解する必要があります。糖尿病発症のリスクが高い人は以下のような方々です。

家系内血縁者に糖尿病の方が複数いる

血縁者に糖尿病が多い方は,糖尿病が起こりやすい体質を有すると考えられます。

若いとき(たとえば,20歳代のとき)に比べて体重が大きく増加した

若年時に比較して体重が大きく増加(たとえば,20kg以上増加)した場合は,糖尿病発症のリスクが高くなります。特に,若年時からどんどん体重が増え続けている場合には,糖尿病発症の危険性がかなり高くなります。

最大体重の時期が鍵
糖尿病の方を初めて診た場合には,どの時点(年齢)で体重が最大であったかを確認します。最大体重の時期に代謝が悪化し,血糖値の上昇が始まっていると考えられるためです。

妊娠時に妊娠糖尿病と診断された

妊娠時に妊娠糖尿病と診断された場合には,分娩後に血糖値が正常化しても,何年もたってから糖尿病になるリスクが(妊娠糖尿病がなかった方に比べて)高いと考えられています。

保健指導を行う場合,上記のリスクをふまえた上で,指導の頻度や内容を考慮する必要があります。

7 糖尿病はどのように診断されるの?どんな検査をするの?

糖尿病の診断には,血糖値とHbA1cの基準が使われます。血糖値の基準は,①空腹時血糖値126mg/dL以上,②随時血糖値200mg/dL以上(随時血糖値とは,食事との関連を考慮せず採血された場合の血糖値を言います。もっと簡単に言うと,1日のいつの時点での採血でも血糖値が200mg/dL以上であれば,糖尿病の可能性があるということです),あるいは③75g OGTT(経口ブドウ糖負荷試験)の2時間値が200mg/dL以上,のいずれかを満たす場合です。HbA1cの基準は,6.5%以上です。

糖尿病診断のポイントは,HbA1cの基準値のみでは糖尿病と診断できないということです。必ず血糖値の基準を満たす必要があります(図3)。ただし,保健指導の現場では,HbA1cが6.5%を超える方が来られた場合には,糖尿病の可能性が高いと考えて差し支えありません。このような場合には,必ずかかりつけ医への受診を勧めて下さい。

血糖値の3基準のいずれか(上記の①~③),あるいはHbA1cの基準(HbA1cが6.5%以上)に当てはまる場合を「糖尿病型」と言います。糖尿病型が確認されたあとに,別日に再び糖尿病型が確認されるか,1回の採血で血糖値とHbA1cの基準の両方を満たす場合は,糖尿病と診断できます。また,糖尿病に典型的な症状(口渇,多飲,多尿,体重減少など)があるか,糖尿病網膜症と診断されている場合には,一度「糖尿病型」が採血で示されたのみで糖尿病と診断できます。

糖尿病の評価で間違いやすい点は,HbA1cで糖尿病の重症度は評価できないということです。たとえば,現在のHbA1cが6.3%の患者さんは重症ではない,という判断でよいでしょうか? 糖尿病の重症度は合併症によって決まることが多いので,今の血糖コントロールが良いからといって重症ではないとは判断できません。また,腎症が進行して腎機能が低下すると,インスリンの排泄も低下するため,血糖コントロールは良好になる場合が多いです。HbA1cで糖尿病の重症度を判断しないように注意しましょう。

HbA1cだけで重症度を評価しない
今の血糖コントロールが良好でも,5年前には血糖コントロールがひどく悪かった,というような場合もあります。HbA1cの高低では糖尿病の重症度は評価できないことを覚えておいて下さい。

 

赤井靖宏

 

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