株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

味覚異常・舌痛への治療薬はいつまで投与すべきか?【原因の特定・除去不能時はビタミンB12の長期投与が必要。亜鉛は3~6カ月継続投与】

No.4901 (2018年03月31日発行) P.59

任 智美 (兵庫医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講師)

登録日: 2018-03-30

最終更新日: 2018-03-28

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

舌炎等の味覚異常への治療についてです。現在,胃切除歴のないビタミンB12欠乏と亜鉛欠乏による味覚異常,舌痛の患者を数人ずつ診療しています。幸いそれぞれメコバラミン(メチコバール®)とポラプレジンク(プロマック®)投与によって症状は改善しています。
これらの薬剤はいつまで投与すればよいのか,再発予防のための維持療法がよいのかどうかについて,ご教示下さい。

(千葉県 K)


【回答】

ビタミンB12欠乏に伴う舌炎は,Hunter舌炎と呼ばれ,舌の痛み,灼熱感,味覚異常を訴えます。通常,吸収されたビタミンB12は,主として肝臓に貯蔵(1~2mg)され,1日のビタミンB12の消費量は1μgと考えられています。したがって,通常ビタミンB12が吸収されなくなっても欠乏状態に陥るまでは数年かかると言われています1)

菜食主義や食事量の低下では,摂取不足も原因になりますが,主な病態は吸収障害です。その原因としては,悪性貧血,胃切除,慢性胃炎,小腸疾患,H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬による胃酸欠乏,メトホルミンの長期服用などが挙げられます。

通常は,2~4週間のビタミンB12の内服あるいは筋注による投与で舌炎は改善し,それとともに味覚異常や舌の痛みも消失しますが,治療中断により再燃することがあるとも言われています2)。特に原因が特定・除去できない場合は,長期に投与する必要があるものと考えます。

亜鉛欠乏は,味覚障害の主な原因となるもので,亜鉛内服療法のよい適応になります。ポラプレジンクを通常量用いた場合(亜鉛量として34mg/日)は,4週間までに有意な血清亜鉛値の上昇を認め,8週間以降にはほぼ一定に推移した後,投与終了4週間後には投与前とほぼ同じ値に低下すると報告されています。味覚障害の治療として投与する場合は,味覚検査においては16週頃までに改善するのに対して,味覚症状は24週まで時間に比して改善することから,タイムラグがあると考えられており,3~6カ月は内服継続することが推奨されています3)

腎疾患(透析性含む),肝疾患,糖尿病,消化器疾患,消化器疾患術後,自己免疫疾患などの全身疾患においても亜鉛欠乏が引き起こされることがありますので,原因疾患がある場合は,適切量の亜鉛内服を継続する必要があります。食餌性の場合は,食事指導を併せて行います。低亜鉛血症を食事療法のみで改善させるのは難しいことが多く,亜鉛内服にて血清亜鉛値が正常範囲まで上昇したことを確認したあとは,維持として市販されているサプリメントの規定量を摂取することを勧めています。

食事療法は,亜鉛を多く含む食品の摂取と同時に,亜鉛はクエン酸やビタミンC,動物性蛋白質と一緒に摂取すると吸収率がよくなるため,これらを料理に取り入れることを勧めます。亜鉛を投与する際,鉄や銅欠乏を引き起こすことがありますので,3カ月に一度は採血で評価を行う必要があります。

当科では,基礎疾患がない場合は,味覚異常治癒後1カ月は継続,徐々に量を減らしていくとともに食事療法,サプリメントの摂取を推奨し,終了としていますが,やはり再度亜鉛不足をきたし,再受診する患者もいます。透析など亜鉛欠乏状態が持続することが予想される場合は,紹介元で亜鉛投与を継続して頂いています。

2017年3月に,ウィルソン病の治療薬として使用されていた「酢酸亜鉛水和物」について低亜鉛血症治療薬としての保険適用が追加承認され,低亜鉛血症を伴う味覚障害に高濃度の亜鉛内服療法を行うことが可能となりました。

【文献】

1) 藤林孝司, 他:日口腔科会誌. 1973;22(3):400-8.

2) 黒木祐吾, 他:歯薬物療. 2015;34(1):9-15.

3) 阪上雅史, 他:日耳鼻会報. 2014;117(8):1093-101.

【回答者】

任 智美 兵庫医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講師

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top