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「脳動脈硬化症」の今日的意義:認知症は生活習慣病?[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.50

松本昌泰 (JCHO星ヶ丘医療センター病院長)

登録日: 2018-01-03

最終更新日: 2017-12-21

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脳出血や脳梗塞などの発症・進展に脳の動脈硬化が関わることは、臨床病理学的検討から自明とされてきた。このため、眼底の網膜動脈の硬化所見などを参考とした脳の動脈硬化の進展を示唆する臨床所見があり、明らかな脳卒中発作の症状や神経所見を認めず、脳循環の障害に関連する頭痛、めまい、物忘れなどの不定の精神神経症状を有する症例を「脳動脈硬化症」と診断し、その治療が行われてきた時代があった。その後、この病名は1990年の厚生省の「脳の動脈硬化性疾患の定義および診断基準に関する研究」班(平井班)の討議を経て「慢性脳循環不全症」という病名に改められることとなった。さらに、超音波計測法、X線CT検査、MRIなどの各種の脳画像診断法の長足の進歩により、subclinicalな無症候性脳血管障害の病態診断が可能となり、その脳卒中の発症・進展予防における意義が明らかとされるようになってきている。

このような脳の動脈硬化をめぐる病態診断法の変遷や脳血管障害の発症・進展予防法の進歩は、欧米諸国に比して脳血管障害の発症頻度が高いわが国において、きわめて重要である。脳血管疾患は死亡原因としては第4位であるが、高齢者の「寝たきり」の最大原因であり、また、超高齢社会で激増しつつある「認知症」の主要な原因でもある。生活習慣病の代表的疾患である脳・冠動脈硬化性疾患はその危険因子とされる高血圧、糖尿病、脂質異常症などの治療によって、その大半が予防可能とされているが、これらの危険因子への適切な対応により、脳卒中はもとより、認知症の発症・進展予防にも大きく貢献しうることが最近の研究結果から示唆されている。

小職は昨年「分子レベルから見た脳・冠動脈硬化症─その臨床へのインパクト」をテーマに第49回日本動脈硬化学会総会・学術集会を開催させて頂いたが、神経内科領域を専門とするものが会頭をおさめるのは、尊敬する故亀山正邦先生が第18回大会を開催して以来であり、身に余る栄誉と思っている。また、「生活習慣病」の提唱者の故日野原重明先生は良い生活習慣の実践こそが脳卒中や認知症の予防に有効であることを、その見事な生涯により実証された。この機会に、畏怖するべきこれらの先達に心からの敬意と感謝の意を捧げたい。

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