(広島県 K)
ヒトの腸管の総表面積はテニスコート一面以上を占めると言われており,この“広大な”腸管内に500~1000種類,数にして100~1000兆個と想定される膨大な数の細菌が定着しています。これら様々な種類の腸内細菌の集合体を腸内フローラ(腸内常在細菌叢)と呼びます。
3歳以降から安定した腸内フローラが形成され,総菌数は1010~1011/gとなり,その大半はクロストリジウム,バクテロイデス,ビフィドバクテリウムなどの嫌気性菌が占めます。大腸菌などの腸内細菌科(Enterobacteriaceae)は107~108/g,ブドウ球菌は104~108/gが検出されます1)。つまり,ブドウ球菌は腸内フローラの常在菌であり,嫌気性菌を除くと,腸内細菌科>ブドウ球菌のバランスが維持されています。
腸内フローラのバランスを大きく崩す最大の因子は抗菌薬の投与です。抗菌薬の投与により,内因性の病原性細菌の異常増殖が引き起こされます(菌交代現象)。抗菌薬の投与後に発症する下痢症として抗菌薬関連下痢症(antibiotics-associated diarrhea:AAD)が知られています。AADの起因菌としてClostridium perfringens,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA),Klebsiella oxytoca,カンジダ,サルモネラなどが知られています。中でもC.difficileによるC.difficile腸炎(C.difficile infection:CDI)が臨床上大きな問題となります2)。
一般病院の細菌検査室や委託検査会社においては,提出された便検体について,腸管感染症の病原菌を検査するために,各種選択培地を用いて病原菌の検出を行いますが,腸内フローラの主な構成菌である嫌気性菌の培養検査は行いません。腸管感染症の病原菌としては,サルモネラ,カンピロバクター,ビブリオ,エルシニア,アエロモナス,腸管出血性大腸菌,赤痢,コレラ,腸チフス・パラチフス,黄色ブドウ球菌などが対象となります。便培養において黄色ブドウ球菌を検出する目的は,ブドウ球菌性食中毒(エンテロトキシン産生黄色ブドウ球菌による)とブドウ球菌性腸炎,特にMR SA腸炎を診断するためです。
患児の便から黄色ブドウ球菌のみが検出される場合について,以下の可能性が考えられます。
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