日本医事新報1月18日号に掲載された、谷明博医師のOPINION1)を拝読した。VART試験論文2)の統計的問題点を論理的に鋭く突いた点で価値がある。
VART試験では、Jikei Heart StudyやKyoto Heart Studyと同様に到達血圧値および標準偏差が対照群と一致するというきわめて稀な現象が生じている問題点は、すでに京都大学の由井芳樹医師によって指摘され本誌にも紹介された3)4)。それに対して千葉大学の佐藤泰憲氏から反論があり5)、さらに由井医師が再反論するという応酬があった6)。
谷医師は今回、佐藤氏が反論のために掲載した血圧値の経過表を詳細に分析し、以下の2点に着目した。
①24カ月までは、常にバルサルタン群で1.4〜1.9mmHg高かった収縮期血圧値が、突如36カ月時点で急激に接近し0.4mmHgの差に縮まっていること。
②標準偏差に関しても、24カ月までは常にバルサルタン群で大きかった数字が、36カ月時点で突如、バルサルタン群のほうが大幅に小さくなっていること。
この奇妙な現象について論理的に組み立てた数学的推理から、偶然にしてはきわめて不自然であることを見抜いた点で慧眼である。
千葉大学はVART試験に関する学内調査委員会の中間報告を発表し、意図的にデータ操作が行われたことを示す内容は見いだせなかったと述べている7)。しかしこの調査結果はきわめて不十分な内容である。
まず第1に、試験対象となった1021例中、わずか108例(10.6%)の調査にすぎず、他のディオバン関連調査における対象数に比しても際だって少ない。しかも調査には欠かせない資料であるCRF(Case Report Form、調査票)を早々と廃棄していたというのであるから論外である。
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