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ミラーニューロンの概要

No.4685 (2014年02月08日発行) P.68

村田 哲 (近畿大学医学部生理学講座准教授)

登録日: 2014-02-08

最終更新日: 2017-09-21

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【Q】

ミラーニューロン(mirror neuron;MN)について概説を。また,可能であれば自閉症スペクトラムなどの症状や障害との関係についても併せて。
(京都府 Y)

【A】

MNは,他者の脳の内部状態を,自分の脳内でも再現すると考えられている。このシステムの障害が,自閉症スペクトラムと関わることも指摘されている

動物のMN

MNは,1992年にイタリアのグループより発表された,サルの脳内の神経活動である1)。サル自身が物体をつかむ時に活動するニューロンが,同じ動作をする実験者の姿をサルが観察した時にも反応することが分かった2)。実験当初,腹側運動前野のF5と呼ばれる領域でこの反応が記録されたが,その後,下頭頂葉のPFGと呼ばれる領域でも見つかった。

これら2つの領域は,解剖学的な結合が強く,この神経回路をミラーニューロンシステム(mirror neuron system;MNS)と呼ぶ。また腹側運動前野は,視覚情報から運動へ変換する役割を持っており,この領域で手の把持運動の遂行に関わるニューロン活動が見つかる。

MNでは,他者の動作を観察している時に,他者の脳の中で立ち上がっている動作実行のために必要な神経活動が再現される。つまり,他者の脳の内部状態が,自分の脳内でも同じようにシミュレーションされることになる。

機能的な意味から見たMNの複数の役割

①他者の行動や意図の理解
こうした機能的意味から,MNの複数の役割が考えられる。主な役割として,他者の動作についての理解に関わると考えられている。実際,MNは他者の動作を観察した時だけでなく,動作に伴う音のみを聞いた時でも反応することが分かっている。このことからMNは他者が何をしているのかを抽象的に表象しているのであろうと言われている。

さらに,同じ動作を観察しても,意図によって異なる反応を示すMNも見つかり,他者の動作の意図の理解にも関わることが示唆された3)

②模倣に関する役割
そのほか,歌を模倣学習する鳥から,鳴き声に関するMNが記録されており,模倣学習にとってMNが重要な役割を担うことが示されている4)。また,眼球運動に関わるMNの発見から,他者の注意の理解などの役割も考えられる3)

なお,腹側頭頂間領域(ventral intrapari­etal area;VIP)では,自己の身体部位を表象するニューロンが,他者の身体部位も視覚的に表象することが知られている5)

ヒトのMN

前述のMNの性質は,ヒトの社会的行動と結びつけられ,他者の心の理解(心の理論),言語の萌芽,さらには共感や自他の身体の知覚との関わりも指摘され,社会的認知の神経科学的なメカニズムの1つとして捉えられている。

ただ,サルでは,模倣や心の理論などが見られず,またMNが運動に関わる領域から記録されているなどの理由から,必要以上に拡大して解釈することには異論もある3)

ヒトの脳でもMNが存在するということの根拠は,以下の実験が基となっている。

ヒトの運動野に対して経頭蓋磁気刺激法(trans­cranial magnetic stimulation;TMS)を行うと,筋肉にその活動を示す運動誘発電位(motor evoked potential;MEP)が誘発されるが,例えば手の動きを観察している時にTMSを行うと,手を動かす筋肉に発生するMEPが大きくなることが示されている3)。そこで問題となるのは,サルとヒトの脳の解剖学的な対応づけである。

ヒトでは,機能イメージング〔機能的磁気共鳴画像法(func­tional magnetic resonance imaging;fMRI),陽電子放射断層撮影(posi­tron emission to­mography;PET),脳磁図(magnetoencepha­lo­graphy;MEG)など〕によって,下前頭回(44野付近),6野の外側部,下頭頂小葉などの領域が手の動作の観察や模倣に関わることが明らかになっている。ヒトでも下頭頂小葉と運動前野を結ぶネットワークがMNSとして考えられている。

言語との関わりは,このMNSが言語領野と重なっていることや身振り手振り,言語の始まりであるとの考えに基づく。
また,近年,他者の情動の理解,つまり共感に注目が集まっている。他者が痛みや不快さを感じる様子を観察している時の活動と,自らのその情動に関わる活動が帯状回や島皮質でオーバーラップすることが明らかになっている4)

自閉症との関わり

自閉症患者では,コミュニケーションや他者理解などの社会的認知とともに模倣の障害が見られ,それらの原因の1つとして,MNSの障害が考えられている3)。自閉症の患者と健常者の脳活動を脳波やfMRI,MEGで比較すると,他者の動作観察や模倣などで違いを認める。自閉症では下前頭回の活動が見られなかったり,活動の潜時が延長したりする。

また,MNでは,動作そのもののほかに,動作の目的・意図が重要である。それに一致するように,例えば,健常児では他者が食べ物を手で取る動作を観察中に,目的によって口の筋肉が活動したりしなかったりするのに対し,自閉症児ではその現象が見られないことが報告されている3)

ただ,動作に関わるMNだけをもって,自閉症スペクトラムすべてを説明するのは無理があるとも考えられる。実際,心の理論に関わる脳領域は,MNSとは異なっており,今後の検討が必要である。


【文 献】

 1) di Pellegrino G, et al:Exp Brain Res. 1992;91 (1):176-80.
 2) ジャコモ・リゾラッティ, 他:ミラーニューロン. 紀伊國屋書店, 2009.
 3) Rizzolatti G, et al:Exp Brain Res. 2010;200 (3-4):223-37.
 4) 開 一夫, 他 編:ソーシャルブレインズ. 東京大学出版会, 2009.
 5) Ishida H, et al:J Cogn Neurosci. 2010;22(1): 83-96.

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