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(4)抗不安薬【第1章 向精神薬の今】[特集:向精神薬 総まとめ]

No.4709 (2014年07月26日発行) P.41

稲田 健 (東京女子医科大学精神医学教室講師)

登録日: 2016-09-01

最終更新日: 2017-04-28

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  • 抗不安薬は不安症状に対する薬剤で,ベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤とSSRIなどの抗うつ薬が主流となっている。

    BZ系抗不安薬としてはジアゼパム(ホリゾン®)など,SSRIとしてはセルトラリン(ジェイゾロフト®)などがある。

    実際の治療においては,非薬物療法との組み合わせを忘れずに,依存性などの副作用に注意しながら処方する。

    1. 抗不安薬のトレンド

    1 抗不安薬「今昔」─ 誕生から現在まで

    (1)不安と生体反応

    不安は生物が生命を維持するために不可欠な情動反応であり,不安という情動反応は,交感神経興奮症状や視床下部-下垂体-副腎皮質系(hypothalamo-pituitary-adrenal axis:HPA-axis)の亢進などの生体反応を引き起こす。これらの生体反応は重要であるが,過剰な反応は社会生活上の大きな障害となる。社会生活において障害となる不安・恐怖も疾患特異的な症状ではなく,不安障害,うつ病,統合失調症などいずれの精神障害においても認められる非特異的な症状である。原疾患を治療することによって不安は軽減されるため,抗うつ薬,抗精神病薬にも抗不安効果は認められる。
    紀元前から不安に対して使用されてきた薬剤としては,生薬やアルコールがある。1900年頃より,向精神薬として抗痙攣作用と同時に鎮静作用を有するバルビツール酸が用いられてきた。バルビツール酸には耐性形成や依存性,過量投与時の危険性などの問題があり,現在,抗不安薬として使用されることはない。

    (2)抗不安薬開発の経緯

    1950年代に合成されたmeprobamateは,マイナートランキライザーという呼称を得た最初の薬剤であるが,離脱症状のため20年あまりで使用されなくなった。1950年代には,最初のベンゾジアゼピン(benzodiazepine:BZ)系薬剤であるchlordiazepoxideが開発され,これまで数多くのBZ系薬剤が開発・使用されている。BZ系薬剤は現在でも抗不安薬として幅広く用いられているが,以前のバルビツール酸に比べればはるかに軽度ではあるものの依存性などの問題があり,使用に関する注意喚起がなされている。1980年代には,抗うつ薬の選択的セロトニン再取込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)が登場し,不安障害に対する効果が確認され,不安障害治療薬の主流となっている。

    (3)抗不安薬という呼称

    ここで,抗不安薬という呼称について考えてみる。様々な薬剤が不安症状と不安障害の治療薬として使用されている。抗不安薬という薬剤名も,不安症状を緩和する薬剤から不安障害の治療薬まで,広い範囲の薬剤が含まれる。尾鷲ら1)は,主効果を抗不安作用のみとする薬剤を狭義の抗不安薬,抗不安作用および不安障害に対する治療効果を有するものを広義の抗不安薬と考えることを提唱している。前者においては,BZ系薬剤とタンドスピロンがあり,後者にはSSRIをはじめとする抗うつ薬が当てはまる。

    2 なぜ効くのか?─ 作用機序概説

    BZ系薬剤は,BZ受容体に作用する。BZ受容体は,隣接するGABA(γ-amino-butyric acid)受容体とともにGABA-BZ-Clイオンチャネル受容体複合体を形成している2)
    GABAがこの複合体のGABA受容体に結合すると,複合体のClイオンチャネルの透過性が増し,細胞内へのClイオンの流入が増加,細胞膜は安定状態となり,神経細胞の興奮が抑制される。さらにBZ系薬剤が結合すると,Clイオンチャネルの透過性もさらに増大する。このように,BZ系薬剤はGABAの作用を強めることで,抗不安作用を発揮すると考えられている。特徴は,BZ系薬剤はGABAの作用を増強させる薬であり,BZ系薬剤のみが受容体に結合しても特別な作用はないことである。これは,BZ系薬剤は一定以上に多く投与しても効果は頭打ちになるということであり,多剤併用が無意味であることや,過量服薬時の安全性と関係している。
    SSRIやタンドスピロンはセロトニン神経系に作用する。SSRIはセロトニンの再取込みを阻害し,シナプス間隙におけるセロトニン量を増やし,セロトニン神経伝達を増強することにより,抗不安作用を生じると考えられている。タンドスピロンはセロトニン5-HT1A受容体の作動薬で,セロトニン作動性神経細胞活性を増強することにより,抗不安作用を発揮すると考えられている3)

    3 新薬開発 ─ 今後の展望

    抗不安薬の開発動向としては,①BZ系薬剤,セロトニン系薬剤など臨床的に抗不安効果が認められている薬剤をさらに改良する方向性と,②不安を誘発あるいは増強する物質の拮抗薬から抗不安物質を見出し,抗不安薬として開発する2つの方向性がうかがえる4)
    BZ系薬剤の研究から発展した新薬開発の方向性は,BZ系薬剤の作用部位であり,不安と関連すると考えられているGABAA受容体の作動薬である。GABAA受容体はα1〜α6,β1〜β3,γ1〜γ3の主要サブユニットとδ,ε,θ,πといったマイナーサブユニットから構成されている。
    各種の動物実験の結果から,BZ系薬剤の抗不安作用はα2サブユニットを含むGABAA受容体が担っていると考えられており,α2サブユニットに特異的に作用する薬剤は,筋弛緩や鎮静作用を持たずに抗不安効果のみを示す抗不安薬となることが期待されている。
    SSRIやセロトニン5HT1A受容体アゴニストのbuspironeとタンドスピロンが抗不安効果を示すことから,セロトニン系に作用する薬剤は,抗不安薬となりうることが期待される。セロトニン受容体も多くのサブタイプが知られており,受容体サブタイプへの親和性の違いから,抗不安薬が開発されることが期待されている。
    GABA系やセロトニン系のほか,神経ペプチド関連物質であるコレシストキニン(cholecystokinin:CCK)の拮抗薬,不安やストレスと密接に関連するHPA-axisを調節するコルチコトロピン放出因子(corticotropin-releasing factor:CRF)の拮抗薬,不安関連物質と考えられるニューロペプチドY(neuropeptide-Y:NPY)の作動薬,タキキニン属ペプチドのサブスタンスP(substance P)やニューロキニン(neurokinin:NK)受容体の拮抗薬,グルタミン酸受容体関連物質などは,前臨床試験において抗不安薬の候補として研究が進められている。

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