株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

(2)NAFLD/NASHの病態・診断 [特集:NAFLD/NASHの病因・病態・治療]

No.4849 (2017年04月01日発行) P.34

谷合麻紀子 (東京女子医科大学消化器内科講師)

橋本悦子 (東京女子医科大学消化器内科教授)

登録日: 2017-03-31

最終更新日: 2017-03-29

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • next
  • アルコール性肝障害をきたすほどの飲酒歴がない脂肪肝でほかの肝疾患をきたす要因が否定された病態は,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)で,肝組織所見で非アルコール性脂肪肝(NAFL)と脂肪性肝炎を呈する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に分類される

    NAFLD/NASHの病因は単一ではないが,最も重要な要因として肥満・生活習慣病などインスリン抵抗性を背景因子として発症し,同様にインスリン抵抗性を基盤とするメタボリックシンドロームの肝における表現型と位置づけられる

    わが国では,肥満人口の急増に伴いNAFLD/NASHも急増しており,現在,成人検診受診者における腹部超音波検査やCT検査で検出可能なNAFLDの頻度は,男性では30歳代から60歳代まで30~40%,女性では20歳代では数%で加齢とともに増加し,閉経後の50歳代以降で20%以上に急増する

    トランスアミナーゼ値はNAFLD/NASHの重症度を反映せず,線維化進行に伴い低下する例が多い

    NAFLD/NASHを基盤とする肝硬変では,病態の進行に伴い肝組織の病理学的特徴所見である脂肪変性や炎症性細胞浸潤などの所見が失われたburn out NASHとなる

    NAFLとNASHは,かつては異なった病態と考えられていたが,現在は同一病態の異なった時相とする説が主流であり,両者の分別は不要であるとの考えもある

    NAFLD/NASHを基盤とする肝硬変では,年率2%程度,発癌時年齢中央値約70歳で肝細胞癌を合併する

    1. NAFLD/NASHの疾患概念

    1 脂肪肝の分類

    肝の脂肪変性(steatosis)いわゆる脂肪肝は,余剰な脂肪が脂肪滴として肝細胞の細胞質に蓄積した状態で,その病因から,アルコール性と非アルコール性に大別される。アルコール性肝障害をきたすほどの飲酒歴がなく肝に脂肪変性を認める病態の総称が非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)である。NAFLDは,組織所見から,従来は単純性脂肪肝と言われ病態がほとんど進行しないと考えられていた非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver:NAFL)と,進行性で肝硬変や肝癌の発症母地にもなる非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)とに分類される。

    2 NAFLD/NASHとメタボリックシンドロームの関係

    わが国では近年,食習慣を含めたライフスタイルの欧米化により,過栄養状態を基盤とした全身性の肥満人口が急激に増加している。肥満は皮下脂肪型と内臓脂肪型に大別され,後者は前者に比しメタボリックシンドロームを惹起しやすいことが知られている。メタボリックシンドロームとは,肥満,特に内臓脂肪蓄積を基盤としたインスリン抵抗性と2型糖尿病,脂質異常症,高血圧など動脈硬化性疾患や生活習慣病の複数のリスクを包括した概念である。同様に内臓脂肪型肥満を基盤として発症することから,メタボリックシンドロームの肝における表現型と位置づけられるNAFLD/NASHは,近年の肥満人口の増加に伴って急増し,わが国で最も頻度の高い肝疾患となった。また,NAFLD/NASHはそれ自体が2型糖尿病など生活習慣病の発症リスク因子であることが明らかになり,全身疾患としてとらえる必要がある重要な疾患である。

    3 NAFLD/NASHの定義

    アルコール性肝障害をきたすほどの飲酒歴がなく,既知の肝障害をきたしうる病因(ウイルス,自己免疫など)を除外した脂肪肝がNAFLD/NASHであるが,複数の病因によるものを包含しており,どこまでをNAFLD/NASHとするか,疾患の定義はいまだコンセンサスが得られていない。米国のガイドライン1),欧州のガイドライン2)でも疾患の定義に統一性がなく,更新のたびに大きな見直しがなされているのが現状である。
    最新の米国のガイドラインでは,薬物に起因する脂肪肝はNAFLD/NASHから除外され1),最新の欧州のガイドラインでは,インスリン抵抗性を基盤とする病態のみをNAFLD/NASHとしている点が大きな特徴である2)
    わが国においては,2014年に日本消化器病学会による『NAFLD/NASH診療ガイドライン2014』3)が,2015年には日本肝臓学会による『NASH・NAFLDの診療ガイド2015』4)がそれぞれ発行され,概念・診断・治療などに関してある程度の方向性が示された。

    残り6,569文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    関連求人情報

    関連物件情報

    もっと見る

    page top