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(1)ワクチンの安全性評価 ─現状と対策 [特集:ワクチンの今を知って明日に備える]

No.4720 (2014年10月11日発行) P.18

庵原俊昭 (国立病院機構三重病院院長・小児科)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-23

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  • ワクチンの安全性の問題は時にマスコミを騒がし,接種率の低下を招いてきた

    ワクチン接種後のワクチンが関わる臨床症状(副反応)には一定のパターンがある

    わが国ではワクチンの安全性について何らかの問題が起こると,ワクチン接種を一時見合わせにする傾向がある

    わが国では予防接種後副反応報告制度により,重篤なワクチンの副反応を評価しようとしており,今後この制度が円滑に動くことが期待される

    1. ワクチンに求められるもの

    ワクチンは健康な人に接種するため,高い有効性と安全性が求められる。さらに政府が勧奨接種や義務接種をする際には,有効性に加え,より高い安全性と医療経済性が要求される。ワクチンの安全性の問題は時にマスコミを騒がし,ワクチン接種率の低下を招いてきた。現在もヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)ワクチンの安全性評価が話題となっている。
    ワクチンの安全性評価とは,ワクチン接種後に発生した反応(臨床症状)について医学的・疫学的に評価することである。そして,それをもとに臨床症状の病態を解明し,適切な対応を図ることが求められている。本稿では,最近の安全性評価の話題について解説する。

    2. ワクチン接種後の臨床症状:健康被害と副反応

    ワクチン治験時におけるワクチン接種後の臨床症状の観察期間は30日間である。その臨床症状には,予測される臨床症状(solicited reactions)と予測されない臨床症状(unsolicited reactions)とがあり,併せて健康被害と呼ばれている。予測される臨床症状とは,ワクチンが直接関係する臨床症状であり,副反応と呼ばれているものである。副反応には接種部位の発赤・腫脹・疼痛などの局所反応と,発熱・不機嫌・倦怠感などの全身反応がある。予測されない臨床症状とは,通常のワクチン接種では認められず,医学的にもその発症病態にワクチンとの因果関係が説明しがたい症状であり,多くは紛れ込みである。
    通常認めるワクチン接種後に予測される臨床症状は,病態により発症時期が決まっている(図1)1)。ワクチン接種直後に認めるのは,血管迷走神経反射による顔面蒼白・冷汗・血圧低下である。ワクチン成分によるアナフィラキシーは,接種後30分頃に発症する。すなわち,蕁麻疹・発疹などの皮膚症状から始まって,咳・喘鳴などの呼吸器症状が加わり,顔面蒼白・血圧低下などの循環器症状が出現する。ワクチン接種後12~24時間には,Ⅳ型アレルギー反応が関与する発疹が出現する。自然免疫が関係する局所反応と全身反応もワクチン接種後12~24時間に出現する。発熱の多くは24時間以内に解熱する。
    判断が難しいのは,ワクチン接種により獲得された抗体がヒトの組織と反応して発症する,急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM),ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS),特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)などの自己免疫疾患との因果関係である。現在疫学的に証明されているのは,1976年のブタインフルエンザワクチンとGBSの関係のみである。
    生ワクチンに含まれる病原体の増殖による臨床症状は,ワクチンにより一定のパターンがある。麻疹ワクチン接種後の発熱・発疹は接種後7~10日,水痘ワクチン接種後の皮疹は接種後14~25日,ムンプスワクチン接種後の耳下腺腫脹や無菌性髄膜炎は接種後20日頃に発症する。前記以外の時期に発症した臨床症状の多くは紛れ込みである。

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