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「漢方の将来ビジョン研究会」が設立 - がん支持療法などでエビデンス構築を加速化 [東洋医学会と日漢協]

No.4816 (2016年08月13日発行) P.9

登録日: 2016-08-13

最終更新日: 2016-10-30

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【概要】日本東洋医学会(佐藤弘会長)と日本漢方生薬製剤協会(日漢協、加藤照和会長)が3日、「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会」(会長=高久史麿日本医学会会長)を設立した。がん領域などで漢方薬のエビデンスの構築の加速化を目指す。

漢方薬を巡っては近年、がんの術後合併症・後遺症や化学療法の副作用に対する支持療法における注目が高まっている。例えば外科領域では、手術や化学療法による食欲不振には六君子湯、口内炎には半夏瀉心湯が用いられている。政策レベルでも、昨年12月に政府が策定した「がん対策加速化プラン」に、漢方薬を用いた支持療法に関する研究の推進が盛り込まれた。
一方、米国臨床腫瘍学会ガイドラインには、大腸がんの標準治療薬オキサリプラチンの神経毒性に対する支持療法の項に、牛車腎気丸が記載されている。ただし、エビデンス不足のため推奨グレードは低い。複数の生薬を複合して生成される漢方薬は、薬物動態や作用機序が不明瞭で、指標となるバイオマーカーも開発されていないため、有効性の評価が難しいという課題がある。

●バイオマーカーの開発に重点
研究会初会合では、がん領域での漢方薬の位置づけを巡り、(1)支持療法におけるエビデンスの構築、(2)国民に対する科学的エビデンスの情報発信、(3)海外展開を踏まえた産学連携の推進―の3つを柱とする提言がとりまとめられた。
代表世話人の北島政樹国際医療福祉大名誉学長は、会合終了後に会見し、「エビデンス構築を一層加速化すべきとの認識で一致した」と説明。具体的な取り組みとしては、レスポンダーの選定に利用できる製剤ごとのバイオマーカーの開発に注力すべきとの方針が確認されたという。日漢協の加藤会長(ツムラ社長)は、「医師の経験に左右されやすい漢方診療の『証』の“見える化”が、エビデンスに基づく漢方薬の使用につながる」と述べた。

●医療費削減効果がDPCデータで明らかに
会合ではまた、康永秀生氏(東大院教授)が包括支払制度(DPC)データの解析で明らかになった、漢方薬の医療費削減効果について発表。慢性硬膜下血腫患者に対する五苓散の投与が穿孔洗浄術後の再手術率の低減に寄与したことや、結腸直腸がんの術後イレウスに対する大建中湯の投与が入院医療費の軽減につながったことが紹介されたという。
研究会は今後、高齢者医療における漢方薬使用のあり方について議論。漢方薬は高齢者やがん患者には飲みにくいとの指摘もあるため、剤形についても検討。生薬の確保を含めた安定供給体制についても提言をとりまとめる。
加藤氏は研究会の最終目標について、「漢方薬をより広く使ってもらえる環境を実現することが必要」とした上で、国内だけでなく海外の医師に対しても、エビデンスに関する情報発信を強化していきたいとの考えを示した。

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