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膵囊胞性腫瘍(IPMN)の治療方針と経過観察法 【EUSで結節径を測定して,経過観察か手術かを判断】

No.4814 (2016年07月30日発行) P.60

潟沼朗生 (手稲渓仁会病院消化器内科副部長)

登録日: 2016-07-30

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

膵臓に3cm大の嚢胞があると指摘された患者には,どのような検査を行いますか。治療不必要と判断された場合の経過観察法と併せ,手稲渓仁会病院・潟沼朗生先生にご教示願います。
【質問者】
糸井隆夫:東京医科大学消化器内科主任教授

【A】

(1)膵嚢胞の種類
膵嚢胞には膵嚢胞性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)などの嚢胞性膵腫瘍と仮性嚢胞や貯留嚢胞などの非腫瘍性嚢胞があります。現在,嚢胞性膵腫瘍にはIPMNのほか,mucinous cystic neoplasm(MCN)とserous cystic neoplasm(SCN)の3つがあります。ただし,充実性腫瘍の内部の変性・壊死により,あたかも嚢胞に見える腫瘍としてneuroendocrine tumor(NET)やsolid pseudopapillary neoplasm(SPN)があり,病歴の詳細な聴取,身体所見の確認,血液生化学検査を行い,画像検査での嚢胞の形態,内部性状,血流状態,主膵管の拡張や交通,背景膵の所見から総合的に鑑別診断を行います。
(2)IPMNの治療方針
IPMNの治療方針については,国際診療ガイドラインが発表されています。分枝型IPMNの手術適応については,2006年の初版では,①有症状,②拡張分枝(嚢胞)内の壁在結節(結節),③主膵管拡張,④細胞診悪性,⑤嚢胞径3cm以上,とされていました。その後,2012年の改定版では,手術適応を控えめの2段階とすることに変更されています。手術適応となるhigh-risk stigmataは,①閉塞性黄疸を伴う膵頭部病変,②造影される充実性成分,③主膵管径10mm以上,であり,精査を行うべきworrisome featureとして,①嚢胞径3
cm以上,②隔壁の肥厚,③主膵管径5~9mm,④造影効果のない結節,⑤主膵管径の急激な変化,などが挙げられ,精査法としては超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography:EUS)が推奨されています。
(3)症例患者の検査・治療・経過観察の方針
さて,質問にある3cm大の嚢胞を有する患者の検査にあたっては,上記のガイドラインに従い,まず造影CTとMR胆管膵管造影(magnetic resonance cholangiopancreatography:MRCP),そしてEUSを行います。EUSは結節の有無の評価に優れた検査法です。結節がある場合には径を測定します。結節があればガイドラインでは手術適応とされていますが,具体的な径については記載されていません。日本では6mm,7mm,あるいは10mm以上を手術適応など様々な意見が出されていますが,実際には患者の年齢や全身状態も考慮して総合的に判断しています。
ここで,IPMNの進展(結節の出現や増大,嚢胞径の増大)の観点から治療方針を考えてみましょう。日本膵臓学会の分枝型IPMNの多施設検討によると,EUSにて結節を認めない例の進展率は観察期間約4年で17.8%,悪性化率は2.6%と低く,EUSにて小さな結節(1~8mm)を認めた例でも結節の増大は観察期間4年で23%だったが,手術によって悪性だったのは非浸潤癌の1例のみと報告されています。したがって,EUSにて結節がない,あるいは結節径が小さい例には経過観察を行い,進展を示した場合に手術を考慮する治療方針が妥当と言えます。
ただし,経過観察を行う上で留意すべきことがあります。分枝型IPMNの患者には通常型の膵癌が併存する頻度が高いということです。併存膵癌の発生頻度は年率約1%と報告されており,IPMNの進展の評価とともに併存膵癌の監視が重要となります。IPMN自体の進展は緩徐であり,年に1回の検査で十分と考えますが,併存膵癌の監視という観点からは短期間での検査が必要です。検査法と間隔については,6カ月後に造影CT,12カ月後にMRCPとEUSを行い,これを繰り返す経過観察法がよいと考えます。

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