【Q】
前立腺肥大症のガイドラインでは,30mL以上の大きな前立腺には5α還元酵素阻害薬デュタステリド(アボルブR)の使用が強く推奨されていますが,従来使用されてきたクロルマジノン(プロスタールR)については有効性を支持する根拠が十分でないとされ,デュタステリドより低い推奨グレードとなっています。しかし,実臨床ではクロルマジノンの前立腺縮小作用はデュタステリドよりはるかに強い印象です。
前立腺肥大症の専門家はこれらの薬をどのように使用しているのでしょうか。また,一般医にはこの矛盾をどのように説明したらよいのでしょうか。奈良県立医科大学・藤本清秀先生のご教示をお願いします。
【質問者】
深堀能立:獨協医科大学泌尿器科准教授
【A】
1981年に上市されたクロルマジノンには長年の使用実績はありますが,近年の排尿障害の評価基準による十分なエビデンスを構築してこなかったため,ガイドライン上のエビデンスレベルは低いままとなっています。特に,クロルマジノン投与による前立腺特異抗原(prostate specific antigen:PSA)値の低下が前立腺癌の診断に影響する可能性を指摘され,前立腺肥大症の原因治療薬としての地位が揺らぎ,この間に対症療法としてのα遮断薬が台頭しました。その後,大規模な臨床試験で評価を受けた5α還元酵素阻害薬デュタステリドがエビデンスレベルの高い薬剤として登場しました。
しかし,既存データを比較しますとクロルマジノンのほうが縮小効果は強力です。デュタステリドでは24週で体積減少が有意となり,52週で23~33%の減少となりますが,クロルマジノンでは24週で約30%,52週では45~50%の減少を認めます。体積減少とも関連し,クロルマジノンは投与2カ月で,一方のデュタステリドは投与12カ月でPSA値を約50%低下させます。私は,体積が大きく,排出症状が強い症例ではクロルマジノンを選択しています。また,α遮断薬単独で効果が不十分であれば,クロルマジノンやデュタステリドとの併用治療が合目的で効果が期待できます。
副作用については,合成プロゲステロンであるクロルマジノンは血中テストステロンを低下させ,性機能や乳房関連の副作用が起こりやすくなります。一方のデュタステリドはテストステロンからジヒドロテストステロンへの変換を阻害するため,血中テストステロンはむしろ上昇し,性機能障害は比較的起こりにくいと考えます。したがって,高齢で性機能にこだわらない人にはクロルマジノン,若年で性機能温存を望まれる人にはデュタステリドを適用しています。
しかし,デュタステリドでも過剰なテストステロンはエストロゲンに変換されるため,乳腺刺激症状や性機能障害はクロルマジノン同様にみられ,市販後調査などによる乳腺刺激症状や性機能障害の発生頻度は両薬剤間で差がないようです。
一方,クロルマジノンにはうっ血性心不全,血栓症,肝機能障害,耐糖能異常など重篤な副作用もみられ,効果がなければ16週以上は漫然と投与しないよう注意喚起がなされており,クロルマジノンとデュタステリドの切り替えも考慮しています。
体積30mL以上で,最大尿流率(maximum flow rate:Qmax)が10mL/秒以下の人にはクロルマジノンを先行させ,副作用が出た場合はデュタステリドに切り替えます。あるいは,デュタステリドを先行し,効果が不十分であればクロルマジノンに切り替えます。いずれも,3カ月を目安に先行投与の評価をしています。
以上より,大きな前立腺を速やかに縮小させたい場合はまずクロルマジノンを選択しますが,両薬剤とも前立腺癌を見落とさないためにPSA値(2倍換算)の定期検査が必要であり,排尿状態および副作用を定期的に評価しながら投与すべき薬剤です。