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肺切除後の代償性肺成長と肺再生医療の可能性

No.4773 (2015年10月17日発行) P.52

鈴木秀海 (千葉大学呼吸器外科)

吉野一郎 (千葉大学呼吸器病態外科教授)

登録日: 2015-10-17

最終更新日: 2016-10-26

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哺乳類では一定量の肺切除後,残肺が切除肺を補うようにして成長する現象(compensatory lung growth:代償性肺成長)が1800年代より報告され,その機序としてmechanical stretchや様々な成長因子の関与が解明されてきた。一方,ヒト肺では,分化が完成する8歳以降の再生や成長は確認されてこなかった。
呼吸器外科医は肺切除後の残肺が膨脹することを知っていたが,それは胸腔の死腔を埋めるような肺胞の拡張であり,組織の増成を伴う「成長」ではないと信じられてきた。ところが最近の報告では,成人肺を移植された小児では,身体の成長とともに移植肺が成長していくことが示されている(文献1)。さらに,肺癌で肺全摘を受けた患者の残肺を過分極3Heを用いたMRIで観察したところ,肺胞密度を保持したまま容積が増大していることが明らかにされた(文献2)。
筆者らも,肺移植ドナーや肺葉切除を受けた肺癌患者において,CTより計算された仮想肺重量(密度×容積)が術前の予測を上回ることを報告してきた(文献3)。これらの成果は,成熟したヒト肺でも特殊な条件が加われば,肺が再生する可能性を示している。ヒト代償性肺成長の本質解明には,動物実験や呼吸器外科の臨床を通した知見の積み重ねが必要であるが,そのメカニズムが解明されれば肺再生医療に大きく貢献する可能性がある。

【文献】


1) Toyooka S, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2008;135(2):451-2.
2) Butler JP, et al:N Engl J Med. 2012;367(3):244-7.
3) Mizobuchi T, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2013;146(5):1253-8.

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