株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

術前の絶飲食時間の変化

No.4717 (2014年09月20日発行) P.58

稲田英一 (順天堂大学麻酔科教授)

登録日: 2014-09-20

最終更新日: 2016-10-26

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

麻酔時の誤嚥は重大な合併症である。胃酸の誤嚥による肺の化学的損傷,誤嚥性肺炎,食物塊による物理的な閉塞,さらには急性呼吸促迫症候群も起こりうる。局所麻酔時でも鎮静により気道反射抑制が起こりうる。誤嚥のリスクを軽減するために,予定手術では麻酔法を問わず,術前の絶飲食時間を成人では8時間,小児では年齢により多少異なるが,6時間が推奨されてきた。しかし,胃内容が減少するために必要な時間はもっと短時間であることや,絶飲食による脱水や低血糖のリスク,口渇感などによる苦痛があること,長時間の絶食で腸管絨毛萎縮,腸管透過性亢進による細菌のtranslocationなどが起こることもわかってきた。
このような知見をふまえ,日本麻酔科学会は「術前絶飲食ガイドライン」を2012年に作成した(http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/kangae2.pdf)。それによると,清澄水(水や糖液などの透き通った飲み物)は年齢を問わず麻酔導入2時間前まで,母乳は麻酔導入4時間前まで,人工乳は麻酔導入6時間前まで許される。固形物の絶食時間は示されていないが,米国のガイドラインでは,トーストなどの軽食の場合は麻酔導入まで6時間以上あけること,揚げ物など脂質を多く含む食物や肉の場合は8時間以上あけることが推奨されている(文献1)。
enhanced recovery after surgery(ERAS)では,炭水化物を含む飲料水を麻酔導入2時間前まで積極的に飲むことを推奨している。

【文献】


1) American Society of Anesthesiologists Committee:Anesthesiology. 2011;114(3):495-511.

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top