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肺癌手術におけるエネルギーデバイスの特徴と使いわけ

No.4728 (2014年12月06日発行) P.65

清水公裕 (群馬大学医学部附属病院呼吸器外科(2)講師)

登録日: 2014-12-06

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

呼吸器外科の手術,特に肺癌手術では,ここ数年,エネルギーデバイスが多用されています。それぞれの特徴と使いわけについて,群馬大学・清水公裕先生のご教示をお願いします。
【質問者】
奥村 栄:がん研有明病院呼吸器外科部長

【A】

近年,呼吸器外科領域に限らず,外科で用いられる器具には著しい進歩が認められます。手術において,切離はメスや剪刀で行い,出血した場合などは圧迫や結紮により止血する時代が長く続きましたが,電気メスが開発され,機能が進化した現代では,切離や止血の主役は電気メスになっています。しかし,近年,鏡視下手術の発展とともに新たなエネルギーデバイスが開発され,より簡便に手術手技が行えるようになりました。
最近のエネルギーデバイスは,超音波振動の力で切開や凝固を行う超音波凝固切開装置(ハーモニック ,ソノサージ)と,従来のバイポーラ鉗子型電気メスの機能を応用し,血管や組織をシールした後に,その間を切離するベッセルシーリングシステム(エンシール,リガシュア)の2つにわけられます。これらの器具は切離と止血が一連の操作でできるため,手術時間の短縮や出血量の減少に有用です。
呼吸器外科の手術,特に肺癌における肺切除術などでは,血流量が多い割に脆い肺動脈や肺静脈,さらにはそれらの血管に隣接する気管・気管支,リンパ節に対する手術操作が主になります。当然,それらの血管を損傷すれば即座に生命に関わる状況に陥るわけですから,エネルギーデバイスの選択と使いわけには慎重さが求められます。上記のエネルギーデバイスは,基本的に尖端の鉗子部分に組織を挾んで切離するため鏡視下などの2次元操作に適していますが,反面,組織の層構造を壊し,わからなくしてしまうことがあるため,従来の剪刀や電気メスとの使いわけが重要です。
一般的に超音波凝固切開装置の尖端はベッセルシーリングシステムに比べ細く,狭い部分の操作や細かい操作に適していますが,尖端のキャビテーションや摩擦熱による臓器の熱損傷に注意しなければなりません。また,ベッセルシーリングシステムは,器具の尖端部分の温度変化はおおむね90℃以下にコントロールされ,尖端には非切離領域がついているため,器具自体の熱による損傷や超音波凝固切開装置などでみられる尖端のキャビテーションによる臓器損傷の心配はありませんが,尖端の形状は超音波凝固切開装置に比して太く,把持した組織が切れにくいなどの欠点もあります。
これらエネルギーデバイスの呼吸器外科における使い方としては,胸膜やリンパ管,微小血管の切離や,肺実質の切離,気管支動脈,肺動脈の末梢側の切離(中枢側は結紮)など,両者ともほぼ同じです。機能的にも大きな隔たりはありませんが,重要なことは,それぞれのデバイスの特徴や,弱点,危険性を十分に理解した上で,自分の手術手技に適したデバイスを選択し使用することだと考えています。

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