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多嚢胞性卵巣症候群の管理

No.4710 (2014年08月02日発行) P.63

倉林 工 (新潟市民病院産科・婦人科部長)

登録日: 2014-08-02

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

挙児希望のない女性における多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome:PCOS)による月経異常(無排卵周期症や無月経)の治療法および薬剤の選択,管理の注意点について,新潟市民病院・倉林 工先生に。
【質問者】
岡野浩哉:飯田橋レディースクリニック院長

【A】

PCOSは両側卵巣が腫大・肥厚・多嚢胞化し,月経異常や不妊に多毛,男性化,肥満などを伴う症候群です。生殖可能年齢女性の5~8%が罹患し,不妊原因の約40%を占める正エストロゲン性無排卵の主原因です。
PCOSの一次的な原因は不明ですが,男性ホルモン,インスリン抵抗性などの関与が考えられています。わが国では2007年に日本産科婦人科学会が示した診断基準により,(1)月経異常(無月経,稀発月経,無排卵周期症),(2)多嚢胞性卵巣,(3)血中男性ホルモン高値またはLH(黄体化ホルモン)高値,FSH(卵胞刺激ホルモン)正常のうち,(1)~(3)すべてを満たす場合をPCOSと診断します。
PCOSは思春期の初来とともに発症し,女性のライフステージで様々な病態・疾病を引き起こすため,年齢や背景により主訴や治療目標が異なります。若年~性成熟期女性ではご質問の月経異常(無排卵周期症や無月経)や排卵障害による不妊の原因となるのみでなく,長期的な無排卵による黄体化ホルモン分泌を伴わない恒常的なエストロゲン刺激状態が子宮内膜癌のリスクを高めます。
また,PCOS女性は高インスリン血症や高血圧症,脂質異常症を伴いやすく,将来の生活習慣病のハイリスク群です。最近の日本ナースヘルス研究(JNHS)の解析からも,日本人女性において卵巣性不妊(多くはPCOS)の既往があると,非不妊女性に比べ45歳以降の高血圧のリスクが約1.8倍高くなること,45歳未満の糖尿病のリスクが約3倍高くなり,これは若年期からの体重管理により予防できる可能性があることが示唆されています。
まず,PCOSの肥満例では,基本的にBMI25以下を目標に減量を指導します。低カロリー食や適切な運動療法のみで自然排卵が起こる可能性があります。肥満の有無にかかわらず将来の生活習慣病の予防のためにも,PCOS女性に対する生活・栄養指導など予防医学的管理の意義は非常に大きいと思われます。
ご質問の挙児希望のない月経異常(無排卵周期症や無月経)の場合には,必要に応じて以下の(1)~(3)のホルモン療法を3~6周期行って,周期的な消退出血を起こした後に経過観察を行います。
(1) 一般に内因性のエストロゲンの基礎分泌が保たれていることから,周期的なプロゲスチン(黄体化ホルモン)の投与によるホルムストルム療法
(2) 低用量経口避妊薬
(3) 周期的なエストロゲンとプロゲスチンの投与(カウフマン療法)
頻回の子宮出血を伴う場合には,妊娠や子宮内膜癌の否定も必要です。子宮内膜癌予防のために定期的(少なくとも3カ月ごと)に消退出血を起こすことが望まれます。
挙児希望のある場合には,排卵誘発薬のクロミフェン療法が第一選択になります。クロミフェン療法が無効で肥満,耐糖能異常,インスリン抵抗性のいずれかを有する症例ではクロミフェンにメトホルミンを併用します。効果がなければゴナドトロピン療法や腹腔鏡下卵巣多孔術,さらに体外受精─胚移植などの生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART)も考慮します。

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