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肺葉切除術の学習

No.4706 (2014年07月05日発行) P.62

坂尾幸則 (愛知県がんセンター中央病院呼吸器外科部長)

登録日: 2014-07-05

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

愛知県がんセンター中央病院・坂尾幸則先生は,多くの若い外科医の教育を経験されたと思います。肺動脈の結紮は非常にデリケートな操作であり,そのマスターのためには消化器外科の助手など十分な経験が必要です。若い外科医に肺葉切除の術者として患者さんに関わってもらう基準について,どのようにお考えですか。技術的な側面と,医療人としての成熟度の面,両面からのお答えをお願いします。
【質問者】
桜木 徹:大隅鹿屋病院呼吸器外科部長

【A】

多少質問の趣旨と外れてしまうかもしれません。ご容赦下さい。
若手外科医の教育は,多くの臨床現場の外科医が頭を悩ませているテーマだと思います。
我々の世代では,基本的に職人的な徒弟制度的システムで技術や医師としての心構えなどの伝授がなされていました。つまり,親分とかお師匠様と思える絶対的指導者がおり,医師としての哲学や心構えを共有する=徹底した下積みから始まりました。研修医・専修医といえども,指導者と等しく患者の命を預かるというきわめて重い責任と使命を担っていることを自覚させることが最初の教育だったのだと思います。
患者さんに対する責任と共感は手術室で学ぶのではなく,手術前後に患者に寄り添うことによって初めて理解できるものです。患者にとって一度限りの根治的治療=手術の機会に未熟な外科医が介入してよいのか? 真剣に悩むべきですし,であるがゆえに,手術の質を落とさぬように結紮や縫合の練習を必死で行うべきです。患者さんの体をお借りして外科的・技術的な修練をさせて頂く以上,それなりの心構えと覚悟を持ち,手術手順の理解や基本的技術の習得がなされていて当たり前です。
現在は,外科教育において徒弟制度的側面は薄れ,症例が豊富で合理的な技術習得教育システム(目標とする経験数やわかりやすいカリキュラム,模型やバーチャルでの技術訓練)を掲げている施設に若手外科医が集まる傾向にあります。若手外科医の数が少ないため,“背に腹は代えられぬ”的発想で,量的な技術経験を“売り”として人材確保に努めている施設も少なくないと思います。
私自身にもそのような考えがあることも事実です。しかし,現行のシステムでは研修先を数年単位で変えられるため,お師匠様的な人物と長期間にわたり接する機会も減り,十分な心のトレーニングを受けぬまま,技術修練一辺倒になっていないかどうか心配です。心と体に痛みを抱えた生身の人間=患者の手術を模型やバーチャルでの手術手技習得の延長線上のトレーニングと錯覚することがないか,危惧しています。
外科における下積みとは,術前・術後管理を通して患者の心に寄り添い,医師としての責任や患者目線に立った医療を学ぶ大切な時期だと考えています。私が研修医として初めて手術に助手として参加したときに,うまく布かけ(手術準備)ができませんでした。そのときに外科部長に一喝されました。
「ライセンスを取得した以上,研修医といえどもプロなのだから,やれなくても仕方ない・許される……そんなことなど1つもない。甘えるな!」
プロ意識と患者さんに対する責任感や思いやりを自覚して初めて真の技術習得が成り立つと考えます。無論,我々指導医が信頼・尊敬されるべき人物であるために努力することも必須ですが。

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