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アルコール性急性膵炎の機序は? 依存性がなければ既往患者は再飲酒可能?【少量の飲酒でも再発リスクを高めるため,依存性がなくとも禁酒を指導】

No.4786 (2016年01月16日発行) P.61

下瀬川 徹 (東北大学大学院消化器病態学分野教授)

粂 潔 (東北大学病院消化器内科)

登録日: 2016-01-16

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

アルコール性急性膵炎の発症機序と,アルコール依存性がない場合の再飲酒の是非に関して教えて下さい。 (沖縄県 M)

【A】

統計学的には,アルコールは急性膵炎の発症に深く関連していますが,その密接な関係にもかかわらず,膵炎発症のメカニズムについては十分解明されていません。アルコールとその代謝産物は,膵腺房細胞に対し多くの有害作用を有しています。アルコールが膵腺房細胞に与える影響として,カルシウムシグナル,オートファジー,小胞体ストレス,ミトコンドリアの機能障害などがあり,これら複数のメカニズムが重なり合うことで,膵炎を起こしやすくする可能性が考えられています。
また,患者側の背景因子として,遺伝子異常もアルコール性膵炎の発症に関与しています。膵分泌性トリプシンインヒビター(遺伝子:SPINK1)は膵腺房細胞内でトリプシノーゲンがトリプシンに活性化された場合,これに結合して不活化する内因性の防御因子です。
過去の論文を集計したメタ解析では,SPINK1遺伝子のp.N34S変異によりアルコール性膵炎のリスクは有意に上昇し,そのオッズ比は約5.0(95%CI;3.2~7.9)でした(文献1)。また,キモトリプシンC(遺伝子:CTRC)も,膵内で早期に活性化したトリプシンから膵臓を保護する防御機構です。CTRCのp.R254W変異は,アルコール性膵炎患者の2.3%に同定され,有意な関連が認められています(オッズ比5.1,95%CI;1.1~24.0)(文献2)。頻度の高い遺伝子多型としては,ゲノムワイド関連解析により,PRSS1─PRSS2とクローディン2(遺伝子:CLDN2)の遺伝子多型が同定されています(文献3)。
膵炎の再発には,飲酒が重要な要因であることはよく知られており,アルコール性膵炎の長期にわたる治療の基本は禁酒です。アルコール性急性膵炎の予後は一般に良好とされますが,これは禁酒が徹底できた場合に限られます。
これまで飲酒量による膵炎再発リスクの定量化はあまり行われていませんでした。わが国の膵炎患者752例を対象とした最近の予後調査では,エタノール換算で1日平均20g未満の飲酒者でも,ハザード比が2.2と有意な再発率の上昇を認め,少量の飲酒でも膵炎再発リスクを高めると考えられました(文献4)。
また,用量依存的に再発リスクは上昇し,60g以上80g未満の飲酒者のハザード比は3.7(95%CI;2.4~5.7),80g以上の飲酒者のハザード比は6.1(95%CI;4.3~8.5)でした。80g以上の飲酒者は1年以内に過半数が再発していました。大量飲酒による再発リスクは非常に高く,厳重な断酒指導による介入が必要ですが,一方,少量の飲酒でも再発率は有意に上昇しており,予後改善のためにはアルコール依存の有無や量の多少にかかわらず禁酒の指導が非常に大切です。

【文献】


1) Aoun E, et al:PLoS One. 2008;3(4):e2003.
2) Rosendahl J, et al:Nat Genet. 2008;40(1):78-82.
3) Whitcomb DC, et al:Nat Genet. 2012;44(12):1349-54.
4) 下瀬川 徹, 他:わが国における飲酒の実態把握およびアルコールに関連する生活習慣病とその対策に関する総合的研究. 平成24年度厚生労働科学研究費補助金循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業. 平成22▼平成24年度総合研究報告書. p145-59.

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