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悪性リンパ腫におけるc-myc遺伝子の特徴は?

No.4778 (2015年11月21日発行) P.60

中村直哉 (東海大学医学部基盤診療学系病理診断学教授)

登録日: 2015-11-21

最終更新日: 2016-12-14

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【Q】

悪性リンパ腫での染色体8番14番転座では,MYC遺伝子がIGH遺伝子に結合し,発現が亢進すると説明されています。多くの症例ではIGHのスイッチ領域で転座が起こるため,プロモーター,エンハンサーの影響を受けないと考えられますが,c-myc遺伝子の発現が亢進する機序を教えて下さい。
また,bcl-6遺伝子とIGHの場合はどうでしょうか。 (北海道 K)

【A】

バーキットリンパ腫(Burkitt lymphoma:BL)において,8q24に位置するc-mycは,免疫グロブリン重鎖遺伝子(IGH,14q32),もしくはκ鎖(2p13),λ鎖(22q11)と相互転座を起こしています。
BLの85~90%程度を占めるc-mycとIGHの転座において,8番染色体上のc-mycの切断点は,endemic BL(アフリカなど)ではc-mycのはるか上流にありますが,sporadic BL(わが国や欧米など)では,1st exonもしくは1st intronに多いことが知られています。この切断点からc-mycの下流側を含む8番染色体長腕末端側が,IGHの切断点から14番染色体長腕末端側と入れ替わります。c-mycはセントロメア側からテロメア側へ5’─3’として配列しますが,IGHはテロメア側からセントロメア側へ5’─3’として配列しているので,c-
mycとIGHは14番染色体上でhead to headに結合しています(図1)。なお,sporadic BLにおけるIGHの切断点は,クラススイッチ領域です。
転座していない正常なc-mycアレルは,転写活性がないことが証明されており,c-mycの転写は14番染色体に転座したc-mycアレルの制御異常によるものであることは間違いないと言えます。転座c-mycアレルの転写活性については,諸説あるようです。
IGHのイントロンエンハンサーではなく,IGH3’側下流のエンハンサーに支配されると考えられ,その候補のひとつにκ鎖とIGH鎖で見出されたmatrix associated regions(MARs)があります。これがtopoisomeraseⅡsitesを有することから,転写活性に関与することが推定されています。
一方,IGHエンハンサーがc-mycのプロモーターであるP1やP3を制御しているとの報告もあります。一般的に,B細胞リンパ腫におけるIGHを含む遺伝子転座は,IGH近傍に転座した癌遺伝子がIGHに制御される「脱制御型異常」であり,bcl-6とIGHの転座,bcl-2とIGHの転座も同様とみなされます。
脱制御型異常の場合,産生される蛋白に質的な異常はないと考えられています。c-myc,bcl-6,bcl-2のいずれも,蛋白の発現の有無から転座の有無を推定することはできません。あるB細胞リンパ腫にbcl-6蛋白の発現があったとしても,胚中心B細胞に正常に発現しているbcl-6蛋白なのか,IGHの転座による制御異常で発現したbcl-6蛋白なのかの区別はできません。
ただし,c-mycの発現亢進により,BLではc-myc蛋白の高発現が観察できます。c-myc蛋白に対する単クローン抗体が開発され,免疫組織化学でBLの細胞はほとんどが強陽性を示すことは,ほかのリンパ腫ではほとんど認められない,BLに特異的な所見です(図2)。

【参考】

▼ Boxer LM, et al:Oncogene. 2001;20(40):5595-610.
▼ Hu HM, et al:Leukemia. 2007;21(4):747-53.
▼ Levens D, et al:Genes Cancer. 2010;1(6):547-54.

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