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遠位筋のリウマチ性多発筋痛症

No.4754 (2015年06月06日発行) P.60

福田孝昭 (久留米大学医療センター リウマチ・膠原病センター教授)

登録日: 2015-06-06

最終更新日: 2016-12-13

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【Q】

上肢の遠位筋優位症状の患者を専門医に紹介したところ,リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR)との診断でした。PMRは近位筋の障害と思っていましたが,遠位筋の筋痛もあるのでしょうか。 (福岡県 I)

【A】

PMRに関しては,2012年,EULAR/ACRからprovisional classification criteria for polymyalgia rheumaticaとして分類基準が発表されました(表1)(文献1,2)。この分類基準から考えると,上肢遠位筋に優位な症状がみられる患者を,PMRと診断することは困難と思われます。
遠位筋の症状はあるのか調べてみましたが,文献中にはほとんど見当たりませんでした。文献1,2に引用された延永ら(文献3)の日本人対象の論文では,筋症状ではなく関節病変ですが,膝は37.9%に認められるのに対し,末梢関節では手関節24.1%,手指関節6.9%にのみ認められるとしています。
PMRと高齢発症の関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)との鑑別は難しいとされています。2012年のEULAR/ACRのPMR暫定的分類基準では,末梢関節・滑膜炎の所見として,末梢の腫脹,腱鞘滑膜炎,関節炎などがみられることはあると記されていますが,これらの所見はRAでは84%に認められるものの,PMRでは39%と発症頻度に差があることから,鑑別に有益な臨床所見とされています。
Caporaliら(文献4)は,RAを鑑別した後,PMRと診断した94名について1年後の検討を行ったところ,19名がRAに診断が変更されました。そのままPMRの診断となったのが65名,そのほかは,がんや側頭動脈炎の診断になったとしています。
このようにPMRと診断したものの,ステロイドの効果が不十分であった例や,治療経過が順調でなかった例,非典型例では,背景に悪性腫瘍などが隠れていないか注意すべきでしょう。
筆者の臨床経験から(文献5),PMR患者は,まず「万歳」ができないので,比較的簡単にPMRの診断を予測できます。また,PMRには末梢浮腫がないことが重要とされるものの,実際にはpitting edemaは相当の症例に認められます。RS3PE(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema)症候群との鑑別は,関節痛か筋肉痛かの違いだけかもしれません。
検査では,CRPや赤沈高値はほとんどの症例に認められますし,非特異的ではありますが補体の高値,MMP-3上昇,ALP高値などがみられる症例があり,診断の参考になります。上肢遠位筋にみられる症状が浮腫や腱鞘炎である場合,これらはPMRでもありうる症状です。詳細な問診と診察で,何の臓器からの,どのような症状が主体なのかを鑑別することが重要であり,総合的な診断が重要と考えます。

【文献】


1)Dasgupta B, et al:Arthritis Rheum. 2012;64(4): 943-54.
2)Dasgupta B, et al:Ann Rheum Dis. 2012;71(4): 484-92.
3) Nobunaga M, et al:Jpn J Med. 1989;28(4):452-6.
4) Caporali R, et al:Ann Rheum Dis. 2001;60(11): 1021-4.
5) 福田孝昭:九州リウマチ. 2013;33(2):57-63.

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