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HCV抗体検査陽性でHCV-RNA検査陰性の患者の病態解釈

No.4746 (2015年04月11日発行) P.57

竹越國夫 (竹越内科クリニック院長)

登録日: 2015-04-11

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

30歳代,女性,薬物使用歴や入れ墨はありません。採血でHCV抗体S/CO(signal/cut-off)値1.6,HCV-RNA陰性でした。この病態は偽陽性と解釈してよいでしょうか,既感染の可能性はありますか。また,さらなる検査法はありますか。 (福岡県 S)

【A】

HCV抗体・低力価(S/CO値10未満)陽性/HCV-RNA陰性で,今までHCV感染機会がなかった人の病態解釈と対処方法についてお答えします。
HCV感染の診断手順は,米国CDCガイドライン(図1)(文献1)に示されているように,まずHCV抗体測定を行い,反応陽性の場合はHCV-RNAを測定します。HCV-RNAが陽性であれば,HCV感染症と診断されます。一方,本例のようにHCV-RNA陰性の場合は,現在HCV感染症はないと診断され,大多数ではさらなる検査を行う必要はありません。ただし,注意書きとして,最近6カ月以内にHCV感染機会があった人は,HCV抗体and/or HCV-RNA偽陰性であることがあり,また免疫機能不全(例:HIV陽性,免疫抑制剤投与)者では,HCV抗体偽陰性であることがあるため,HCV-RNA測定を繰り返す,とされています。
ご指摘のように,HCV抗体陽性/HCV-RNA陰性は,既往感染または偽陽性を意味します。両者を鑑別するには,原理・手法・ウイルス蛋白抗原の異なる,ほかのHCV抗体検査法を追加します(文献1)。2種類以上のHCV抗体検査法で陽性であれば,偽陽性は考えにくく,既往感染の可能性が高いと思われます(文献1,2)。しかし,CDCも認める通り,既往感染と偽陽性を正確に鑑別することは困難です(文献1)。
Vermeerschら(文献2)は,2種類のHCV抗体検査陽性で,HCV-RNA陰性の偽陽性と診断された11例のうち,免疫機能不全を含む9例は経過観察中にHCV-RNA陽性となり,残り2例中1例は非A非B型肝炎既往例であったと報告しました。HCV感染症は,感染後大部分はHCV-RNA持続陽性(HCV持続感染)のままですが,一部は自然にHCV-RNAが消失してHCV抗体価も低下し,完全あるいは部分的seroreversion(HCV抗体陽性よりHCV抗体陰性への変化)が起こります(この状態を既往感染と言います)(文献3)。よって,既往感染者におけるHCV抗体価は,HCV持続感染者に比べて低力価(IgG型HCV抗体が低レベル)で,HCV由来の抗原刺激がないことを反映しています(文献4)。
さらなる検査法とは,種々のHCV抗体検査法のことです。HCV抗体検査法は,その原理・手法から,(1)IRMA法,(2)免疫クロマトグラフィー法,(3)PHA法,PA法,LPIA法,AMIA法など,(4)E IA法,(5)CLEIA/CLIA法,(6)EV-FIA法,(7)RI BA法,の7つに分類されます。その使用抗原からは,(1)core抗体検出,(2)第1世代(抗NS3-NS4抗体検出),(3)第2世代(抗NS3-NS4+core抗体検出),(4)第3世代(抗NS3-NS4+core+NS5抗体検出),の4つに分類されます(文献5)。
第2世代・第3世代のHCV抗体検査について,原理・手法の異なる検査間の明らかな検査誤差は認められていません(文献6)。
現在,わが国の大多数の検査施設では第3世代の抗原を用いたHCV検査(CLEIA/CLIA法など)が行われています。種類の異なるHCV抗体検査を追加する場合,検査施設に依頼することになりますが,希望通り応じてくれる施設はほとんどなく,保険診療上の問題もあり,現実には困難です。

【文献】


1) Centers for Disease Control and Prevention (CDC):MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2013;62
(18):362-5.
2) Vermeersch P, et al:J Clin Virol. 2008;42(4):394
-8.
3) Lefrere JJ, et al:J Inf Dis. 1997;175(2):316-22.
4) Klimashevskaya S, et al:J Clin Microbiol. 2007;
45(10):3400-3.
5) 厚生労働省医薬局:医薬品・医療用具等安全性情報. 2002;No.175.
6) 国立感染症研究所.[www.mhlw.go.jp/houdou/2002/03/dl/h0328-2b.pdf]

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