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HBVキャリアへの薬物治療中止時期の見きわめ

No.4743 (2015年03月21日発行) P.61

村田一素 (国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センター肝疾患研究部肝疾患先端治療室長)

溝上雅史 (国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センター肝疾患研究部部長)

登録日: 2015-03-21

最終更新日: 2016-12-12

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【Q】

HBVキャリアに,エンテカビル(バラクルード0.5mg/日)を投与したところ,肝機能が正常化してきた。エンテカビル投与の中止時期を見きわめる指標を。
患者の病態は次の通りである。75歳,男性,HBV,AST,ALTは50~100U/L間を上下している,ZTT,TTTも15.4,16.1Uと高い。特に自覚症状はない。
2008年4月よりエンテカビル0.5mg/日の投与を開始後,AST,ALTはしだいに落ちつき,2014年5月にはそれぞれ20,15U/Lとなった。
投与開始時HBV核酸定量(PCR法)は7.8logコピー/mLで,2009年4月には1.8logコピー/mL未満となり,2010年9月にはHBV核酸定量/リアル検出せずとなった。HBs抗体(CLIA)は2011年6月に9.9mIU/mL以下であったが,2013年6月に正常値(2.9mIU/mL以下)となった。
(千葉県 K)

【A】

B型肝炎ウイルス(HBV)は肝細胞内に侵入するとウイルス遺伝子が肝細胞の核内に移動し,完全閉鎖二本鎖DNAであるcovalently closed circular DNA(cccDNA)に転換される。cccDNAは,いわゆる鋳型としてHBV遺伝子の供給源となり,mRNAを介してDane粒子,HBs抗原,HBe抗原,中空粒子の産生にかかわる(図1)(文献1)。Dane粒子の産生過程においてはHBVのDNA polymerase(逆転写酵素)が必要であるため,エンテカビルなどのDNA polymerase活性を阻害する核酸アナログ製剤の投与により,ウイルスの増殖が抑制され,血中HBV DNAは速やかに低下する。
一方,cccDNAからのmRNAを介したHBs抗原,HBe抗原,中空粒子の産生は逆転写酵素を必要としないため,核酸アナログ製剤を投与しても,それらの産生量の減少はわずかであることが多く,cccDNAを消失させることは難しい。そのため,AST,ALTが正常化し,血中HBV DNAが検出感度以下になったとしても,cccDNAが存在する限りは,核酸アナログ製剤の安易な中断は,ウイルス複製の再開および肝炎の再燃を引き起こすことが多い。
核酸アナログ治療中止基準に関しては,厚生労働省研究班「B型肝炎の核酸アナログ薬治療における治療中止基準の作成と治療中止を目指したインターフェロン治療の有用性に関する研究」にて指針が作成されている。
核酸アナログ治療中止の必要条件として,(1)核酸アナログ薬投与開始後2年以上経過していること,(2)血中HBV DNA(リアルタイムPCR法)が検出感度以下,(3)血中HBe抗原が陰性,を満たした上で,HBs抗原量,HBコア関連抗原量をスコア化し,中止後の再燃リスクを3群にわけている(表1)(文献2)。
詳細は日本肝臓学会による「B型肝炎治療ガイドライン」(2014年)を参照されたい(文献2)。
また,核酸アナログ製剤を安全に中止する方法のひとつとして,核酸アナログ製剤中止後あるいは宿主免疫賦活作用を有するペグインターフェロンを4週間ほど重複投与した後にペグインターフェロン単独療法に切り替えるsequential療法が臨床的に試みられている。現状では治療を中止できる症例は限られているが,今後の症例の蓄積によりsequential療法が有効となる症例の選択が可能になることを期待したい。
いずれにせよ,核酸アナログ治療の中止に関しては,肝炎の再燃および重症化が高頻度に起きうることを念頭に置き,患者に十分説明した上で慎重に行うことが望ましい。

【文献】


1) 田中靖人, 他:Mod Media. 2008;54(12):347-52.
2) 日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会, 編:
B型肝炎治療ガイドライン. 第2版. 2014, p49.
[http://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b]

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