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感染リスクの高い職種における破傷風ワクチンの追加接種回数

No.4735 (2015年01月24日発行) P.60

宮津光伸 (名鉄病院予防接種センター顧問)

登録日: 2015-01-24

最終更新日: 2016-12-12

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【Q】

破傷風ワクチンの接種方法について。
(1)追加接種の回数(若年者)
基本的に3回(初回,1カ月後,6~12カ月後)接種している。若年者であり,基礎免疫を確立して10年以内(22歳まで)の患者には,1回の追加接種でよいか。自治体などの職員(消防士,清掃担当者など)は,同じ若年者でも,仕事上危険度が高いので,海外渡航に準じて接種(2回,1カ月間隔)をすべきか。それとも3回行うべきか。
(2)追加接種の回数(年齢に関係なく)
10年後の追加接種を3回法で行っているが,これでよいか。追加接種の回数を。 (北海道 S)

【A】

破傷風ワクチン(破傷風トキソイド:TT)の限定的な使用方法とその考え方については,以前にも本誌の質疑応答欄(No.4334 p97-98,No.4397 p94-95,No.4412 p99-100)などで紹介しているが,改めて確認したい。
まず,破傷風症例は,2006~11年の6年間で666人(年間89~123人),年平均111人の報告がある。季節的には戸外での活動が多くなる5~9月に集中している。年齢の中央値は71.0歳であり,70歳以上が53.4%,40歳以上が93.8%を占めていた。死亡例は12例で致死率1.9 %であった(文献1)。
2011年3月11日の東日本大震災関連の症例も10例報告されているが,すべて56歳以上で,最高齢は82歳であった。適切な治療のためか,幸い死亡例はなかった(文献2)。質問の対象者はこれに準ずるリスクがあると考える。
日本におけるTTの接種は,1969年4月以降の定期接種がDPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)3種混合に切り替えられた。1975年2月からの一時期(愛知・岐阜・三重は4年間,全国的には数カ月間)のみDT(ジフテリア・破傷風)2種混合に変更されたが,破傷風とジフテリアは継続されていた。通常は1期4回(乳児期にDPT:0.5mLを3回打ち,その1年後に4回目)と10年後の2期まで少なくとも4~5回のTTの予防接種を受けている。
TTの免疫率の推移(図1)を見ると,免疫保有基準の0.01IU/mLでは,DPT・DT世代は常に90~95%を維持している。感染予防基準とされる0.1IU/mLをとっても,1期終了10年後の2期直前で76%まで低下するがDT:0.1mLの追加で速やかに回復している。
この11~12歳の2期の接種は予防接種法で規定されているものである。つまり,10年後のTTの追加はTT:0.1mLで必要十分であるとわが国で決められている。したがって,20歳代・30歳代の人たちに,TT:0.5mLを追加すると必要量の5倍を接種することになる。さらに1カ月後に,そして1年後にTTで追加接種するということはありえず,本人の健康と周囲への影響を考えれば本来行ってはいけないことと考える。
成人で不足している免疫は,破傷風よりも百日咳である。ジフテリアは成人でも十分な免疫が持続し,1999年以降,国内での報告はない(文献3)。日本でも成人の百日咳がひそかに流行ってきているので,DPTで若い人の免疫を高めておかなければ,百日咳の流行は抑えられない。新生児や乳幼児への感染源になりうる事態である。
前述のように,TTの追加接種は10年ごとに,破傷風換算で0.1mLの追加で十分であると法律で規定されている。しかも,それで改善されていることが図1のデータで証明できている。つまり,1969年生まれ以降の成人への追加接種は,DPTを0.2mL,または減量の手間を省きたい場合は0.5
mLで追加する方法しかありえないと考える。1968年以前に生まれた人への追加は,TT:0.5mLで1カ月ほどあけて2回打って,半年~1年後にはDPT:0.5mLで3種類の免疫を高めるように追加接種すればよい。
なお,米国など先進国への出張や赴任にあたって百日咳の追加免疫が求められるので,筆者は2回のTTのうち少なくとも1回はTdap(成人用のDPTで,TTが2倍入ったDPT)で接種するようにしている。Tdapは,国内未承認ワクチンであるため,通常は輸入しなければ使用できないので,認可されるまではDPT:0.5mLで代用してもよい。少なくともDT2種混合は11~12歳での2期の追加接種以外に使用することはなく,それ以外で必要となることもない。DTはジフテリアの影響でTTよりも副反応の程度や頻度は高いと考えられ,百日咳も入っていないので日本人にとってまったく不要である。TT,DT,DPT(DTaP),Tdapの比較内容について表1に示す。
さて,質問について考える。
(1) 上記を理解して頂ければわかるように,DPT:
0.2mLで追加すれば十分である。破傷風には10年間,ジフテリアと百日咳には10年間以上は有効と考えている。もちろんTTはまったく不要である。海外渡航時でもまったく同様であり,TTやDTは不要で,DPTでの追加が必要十分で,より有効かつ安全と考える。
(2) 10年後の追加接種は,どの世代でもDPT:0.2
mLで1回,もし以前にTTで3回すんでいたとしても,同様の追加でかまわない。減量するのが手間ならDPT:0.5mLで追加してもよい。これ以上の追加は副反応が増えるだけで,効果はなく無駄なので接種しないようにして頂きたい。

【文献】


1) IDWR [http://www.nih.go.jp/niid/ja/tetanis-m/tetanis-idwrs/2937-idwrs-1244.html]
2) IDWR [http://www.nih.go.jp/niid/ja/tetanis-m/tetanis-idwrs/2949-idwrs-1245.html]
3) 岡田賢司:臨とウイルス. 2010;38(5):393-9.

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