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急性B型肝炎後の抗体の動態とワクチンの意義

No.4726 (2014年11月22日発行) P.61

是永匡紹 (国立国際医療研究センター国府台病院地域医療連携室消化器・肝臓内科第一肝疾患室医長)

登録日: 2014-11-22

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

31歳,女性。3年前に急性B型肝炎に罹患し,治癒。その後3年経過し,HBs抗原検査を複数回行ったが,いずれも陰性であった。免疫抑制薬などの内服はない。
(1) 急性B型肝炎治療後,HBs抗体ができる頻度はどのくらいか。
(2) HBVワクチンを接種する意義は。
(東京都 T)

【A】

急性B型肝炎は,B型肝炎ウイルス(HBV)に感染してから1~6カ月の潜伏期間を経て発症するが,一過性感染であり,多くは2~3カ月の経過で臨床的に治癒する一方で,稀に劇症肝炎へ移行することもある。また,HBV遺伝子型判定(HBV genotype)で「A」判定されると,HBs抗原の陰性化が遅れ(約1年後にHBs抗原が陰性化する例もある),約7~8%が慢性肝炎に移行することが最近の研究で明らかになった(文献1)。そのためHBs抗原陽性であれば,既に保険収載されているHBVジェノタイプ判定(EIA法)での測定も同時に行って頂きたい。
わが国に多い遺伝子型B,C(B:12%,C:85%)の急性肝炎の一般的な経過では,HBs抗原は2~3カ月で陰性化し,HBs抗体は6カ月以降に陽性化,抗体陽性率は90%とされ,終生免疫を獲得する。急性肝炎後HBs抗体が陽性化しても,HBVに曝露される機会がなければ,HBs抗体値は低下してくる症例もあるが,再度のHBV感染時には,HBs抗体値は再上昇し,肝炎発症を予防すると考えられる。 本例では,急性B型肝炎の治癒後=HBc抗体陽性と推測されるので,HBVワクチンを投与するか否かの検討前にHBs抗体の測定をまず行い,陽性であれば追加投与の必要はない。
HBs抗体が検出感度未満であっても,HBc抗体を測定することで「過去の感染」がわかる。HBVに感染した場合,全員が急性B型肝炎を発症するわけではなく,また「知らない間に感染」している場合も多い。HBc抗体陽性,HBs抗体陰性の意味は,(1)HBs抗原が現在の測定系では「陰性」を示すだけで,肝臓内ではHBVが存在している,(2)過去の感染からの回復中,(3)偽陽性,(4)急性B型肝炎初期,となる(文献2)。
本例を含め,多くの場合(1)≪(2)のいずれかになるが,(2)の場合ではHBVワクチンを1回接種すればanamnestic response(抗体が急速に産生される現象)がみられるとされている。それでは,HBVワクチンの再投与は必要なのであろうか。
医療従事者を中心にHBVワクチン接種が試みられている。これらの症例では,通常HBs抗体陽性化が確認されれば,たとえ陰性化しHBVワクチンを再度接種しなくても,肝炎発症は避けられており,追加接種は基本的に推奨されていない(文献3)。ただし,HBc抗体が陽性化(HBVに感染)している症例があることもわかっている。免疫抑制薬の使用中・後に起きる「HBV再活性化」を防ぐためには,「肝炎」だけでなく「感染」を予防することも重要で,HBs抗体が陰性化した場合は,HBVワクチンの1回接種が考慮されるが,あくまで「HBc抗体陰性=一度もHBVに曝露されていない人」を対象にしている。
以上をまとめると,まずは,HBs抗体の測定を行い,陽性であれば当然HBVワクチン投与の必要性はない。HBs抗体陰性であっても,既にHBc抗体陽性が推察される本例では積極的な投与の対象にはならないと思われる(もちろん,患者が感染機会が多い職場にいる場合や免疫抑制薬を継続使用する場合,HBVワクチン投与を否定するには決定的根拠に乏しく,患者と対話の上,HBVワクチン1回投与にてanamnestic responseを確認することも一考される)。

【文献】


1) Ito K, et al:Hepatology. 2014;59(1):89-97.
2) Lok AS, et al:Hepatology. 2009;50(3):661-2.
3) WHO:Hepatitis B(updated Jun 2014)
[http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs204/en/]
【回答者】

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