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就職時診断書への「就労に支障はない」という文言の付加の可否

No.4725 (2014年11月15日発行) P.64

安西 愈 (弁護士)

登録日: 2014-11-15

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

就職前の健康診断を求めて来院する人から診断書に「就労に支障はない」という文言を入れてもらうように雇用主から言われている,と依頼されることがある。
このようなことは保証できないし,支障の有無を判断するのは,雇用主側だと思うが,労務管理の点からいかがか。 (千葉県 K)

【A】

就業前の健康診断については,次の2つのケースがある。
第一は,企業が採用するか否かの選考手続きの一環としての健診である。これは,企業独自の判断で任意に行うものであるが,採用差別の問題などの観点から,法定健診ではなく任意健診であり,企業は特別の理由がない限り,強制することはできないとされている。そのため,従業員の側が就職活動として健康上,就業に支障のないことを,診断書の記載をもって証明して,採用を申し込む手続きとしていることもある。いずれにしても法的な健診ではなく,何ら拘束力はない。
第二は,「雇い入れ時の健康診断」であり,これは労働安全衛生法第66条,労働安全衛生規則第43条に基づく法定健診である。
この場合は,雇い入れた後の適正配置および入職後の健康管理の基礎資料となるものである。この健診は,必ず実施しなければならないものであり,雇い入れ後の健康管理の基礎となるものであり重要である。
質問のケースの場合,いずれであるか明らかではないが,「就労に支障はない」との文言を入れてもらうように雇用主から言われているということであり,雇用主が関与するものと考えられるから第二の健診と思われる。
その場合,健診項目は法令で定められており,就労開始後の健康管理と労務配置や就業管理上の重要な資料となるものとされている。
そこで,一般の医師の所見として,「就労に支障はない」としたとしても,その就労とはどのような就労であるのか,職種・業務の内容,業務の態様─勤務形態などを判断の前提にしなければ,支障なしとは言えない。一般の健診医としては,職場の実態を知らないと適正に判断できない。そのような就労と作業管理に関わる健康診断と健康管理のことであるから,これは職場の実態を知っている産業医の職務である(労働安全衛生法第13条,同規則第14条)。
したがって,労働者から依頼された一般の健診医としては,診断項目と診断内容からみた,依頼者についての健康上の判断のみにとどまるべきであり,診断項目や問診などを含めた健診結果からみて,健康上異常はないといった所見がよいのではなかろうか。

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