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甲状腺機能亢進症と心雑音の関係

No.4721 (2014年10月18日発行) P.64

小澤安則 (虎の門小澤クリニック院長)

登録日: 2014-10-18

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

生来健康であった成人女性を診察した際に,収縮期駆出性心雑音を大動脈弁領域で聴取した。循環器専門医で精査したところ「器質的心疾患はなく,甲状腺機能亢進症による心雑音」と診断された。この後,患者は甲状腺治療を開始し,甲状腺機能は正常化し,半年以上経過したが,心雑音は消失しない。
甲状腺機能亢進症で心雑音が生じる機序を。
また,甲状腺機能正常化後どのくらいで心雑音は消失するのか。 (神奈川県 S)

【A】

心臓は甲状腺ホルモンの主要な標的臓器の1つで,心筋の収縮に関わるいくつかの蛋白質の遺伝子発現が,甲状腺ホルモンによりコントロールされている。またnon-genomicな作用もこれに加わり,甲状腺ホルモン過剰の症状がすぐに,また端的に現れやすい。
さらに,甲状腺機能亢進症でみられる交感神経系の亢進状態がそれに重なり心筋収縮,刺激伝導系が亢進状態となる。臨床症状としては,動悸,頻脈はほとんどの症例にみられ,さらに心房細動,時に心不全へと発展することもある。理学的には心拍数増加,心尖拍動の亢進,心音の亢進,収縮期血圧の上昇,などであるが,心雑音や血管雑音が聴かれることが時にある。
質問の症例は大動脈弁領域での収縮期駆出性心雑音ということであるが,このような大動脈弁領域での収縮期雑音はバセドウ病に時にみられる。バセドウ病による甲状腺機能亢進症では心拍出量が200~300%に増えており,それが大動脈流出路に流れ込み,心雑音をもたらすとされている。その際,大動脈弁狭窄症症状をもたらす何らかの状態がもともと存在すれば,その現象はより顕著なものになり,また甲状腺機能亢進症の改善後も心雑音が持続することにつながる。
一般に甲状腺機能亢進症がなくても,高齢になると大動脈弁が硬くなり心雑音の原因となる。大動脈弁狭窄症の主因はかつてはリウマチ熱であったが,近年では加齢が主因となっている。また本来の三尖が先天性に二尖であり,比較的若いときから大動脈弁狭窄をきたす場合もある。
質問の症例は年齢が不明であるが,甲状腺機能亢進症による心拍出量の増加に加えて,大動脈弁の硬化などがあるのかもしれない。甲状腺機能亢進症が改善して6カ月経ち,心拍出量が正常化したと思われる時点でも雑音が持続するのであれば,原因の再検討のために,心臓エコー検査を再度行い,検討することになろう。
バセドウ病患者でよく経験する,もう1つの心雑音は僧帽弁逸脱症によるものである。未治療バセドウ病に断層心臓エコー検査を行うと,30~40%の頻度で僧帽弁逸脱症が見つかるという。心雑音としては,心尖部に収縮期逆流性雑音,あるいは非駆出性クリックとして聴取される。逸脱の部位は圧倒的に前尖が多い。この僧帽弁逸脱症は甲状腺機能亢進の程度とは相関せず,また甲状腺機能亢進症が改善した後も長く続くことがある。
甲状腺機能亢進症の心臓はhyperkineticであり,高拍出性が特徴で,左室圧の亢進により僧帽弁乳頭筋に負担がかかる。anatomicalにも心拡大による僧帽弁輪の拡張と乳頭筋の位置のずれ,さらに乳頭筋変性によって逸脱が起こると考えられている。甲状腺機能亢進症が長く続けば,元に戻ることはかなわず,僧帽弁逸脱症が持続するものと考えられる。
もともと僧帽弁逸脱が起こりやすい素因がある場合は,甲状腺機能亢進症になることにより,誘発され,顕性となり,持続する例もあると考えられる。逆流が強い場合は心不全に進むこともあるが,一般的には良性で,将来問題になることは少ない。

【参考】

▼ Klein IL, et al:The Cardiovascular System in Thyro-toxicosis, in Werner &Ingbar’s The Thyroid. 10th ed. Hewis E Braverman, et al, ed. Lippincott Williams &Wilkins, 2013, p440-50.

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