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LEDは寝たきり患者に悪影響を及ぼすか

No.4710 (2014年08月02日発行) P.67

大平明弘 (島根大学医学部眼科学講座教授)

登録日: 2014-08-02

最終更新日: 2016-12-12

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【Q】

当院は,小児から高齢者まで,障害のため寝たきりの入院患者が多い施設であり,省電力・経費節減の一環として照明を発光ダイオード(LED)化する予定である。
ところで,LEDが出す青色光は,睡眠に関係するメラトニン生成を抑制して体内時計を狂わせ,睡眠障害を起こすとも言われている。たまの外出を除けば,ほぼ一日中,患者の眼に天井からの光が直接入り続けることになるが,特に長期入院患者の多い病棟でのLEDは,眼自体や睡眠・体調へ悪影響を及ぼすか。 (富山県 S)

【A】

LED青色光の眼に対する影響は新しい問題で,まだ医学的な評価は定まっていない。
ご指摘のように,最近は夜間に明るい環境で過ごしていると睡眠障害が起こると問題視され,特にスマートフォンやタブレット端末などを就寝前に使うと睡眠の質を悪くし,青色光はその原因であるという論調が目立つ。一方,精神科領域では青色光を午前中に浴びることにより,睡眠障害を改善したり,概日リズムの調節を行うなど,治療に用いられている。

(1)光刺激とメラトニン生成
外界からの光刺激はメラノプシン含有網膜神経節細胞を経て,松果体のβアドレナリン受容体に作動し,メラトニン合成酵素活性を抑制する。その結果,メラトニン血中濃度は昼間に低く,夜間に高くなるという現象を示す。また青色光は,メラトニン抑制作用,生物時計の位相変位作用,抗うつ作用を有する。光による生物時計調節能は,青色などの短波長が最も強い。
夜間のメラトニン血中濃度を測定した研究では,照度が800 luxの光を午前中に浴びた場合,530 nm以上の波長の光を含んでいれば日中のメラトニンは十分に抑制され,0時から午前8時までのメラトニン血中濃度が上がるため,睡眠もよくとることができた。一方,同じ800 luxの光に青色光成分が入っていないと,夜間のメラトニン血中濃度が十分に上がらず,睡眠障害の一因になった(文献1)。このことから,ヒトは午前中にかなりの明るさの,しかも青色光を必要としていることが考えられる。
夜間はメラトニンが増え,副交感神経が優位となり,体温や夜間に増える種々のホルモン分泌の調節などをして眠りやすい状態にしてくれる。しかし,夜間に光を浴びるとメラトニンの半減期は20~30分程度のため,一時的にメラトニン分泌は低下する。恒常的に夜間に,長時間,光に晒された場合,睡眠障害やリズム障害の原因となる。
メラトニンには抗酸化作用があり,細胞内のミトコンドリアや核周囲に高濃度に存在し,局所で発生する活性酸素を消去する。加齢には活性酸素による酸化ストレスが大きく関わっており,アルツハイマー,発癌などの原因となる。夜間メラトニンが十分に出ていると細胞の酸化ストレスを軽減し,加齢や疾患を防ぐと考えられる。このため,夜間は明るい光を浴びないような習慣が必要であり,電気を付けて寝ないようにするほうがよいと思われる。

(2)標準比視感度から見るLED青色光の危険性
照度が100 lux時の青色光網膜障害の有効放射照度に関する報告(文献2)によると,LED青色光のリスクは水銀灯に比べて約23倍高く,露光限界は約60秒と算出されている。しかし,標準比視感度から求めると,LEDで利用される波長460 nmへの眼の感度は,たとえば波長555 nmのときの1/17になる。ヒトの眼は明るい所では波長555 nm付近の光を最も強く感じ,それ以上でもそれ以下でも光に対する眼の感度は悪くなる。つまり,同じ明るさを得ようとすると,波長460 nmでは,波長555 nmのときの17倍の物理的強度が必要となる。しかし,現状の技術では実際にLED光源にこのような物理的強度を持たせることは困難である。したがって,非現実的な仮定に基づいて,LED青色光の危険性を予測していることになる。
現在,LED電球は電球色(2700 K),昼白色(5000 K),昼光色(6700 K)の3種類が市販されている。各社で分光分布は異なるが,一般的に電球色と呼ばれる製品は赤の成分が多く,青の成分が少ない傾向にある。また,逆に昼光色と呼ばれる製品は,青の成分が多く,赤の成分が少ない傾向にある。
1日当たりの許容曝露時間はLED青色光で270秒,LED緑色光で4800秒,LED赤色光で無限大と計算されている(図1)。ただし,LEDは,光学的に拡大した極端な条件で測定しているので,LED青色光であっても,実際には,網膜障害を引き起こす危険性は少ないと思われる。
姿を消しつつある白熱電球は,非常に幅広いスペクトルで環境光(太陽の光)に近い自然な光であるのに対し,蛍光灯(白色)では水銀の発光による鋭いピークがみられる。ただし,400 nm以下の紫外光は蛍光灯の蛍光物質を励起させるのに使われるか,カットされているのでそれほど強度はない。一方,白色LEDは2つのピークを持つ特徴的なスペクトルになっている。これは,白色LEDがLED青色光+蛍光物質という組み合わせで白色光を発生させていることに由来する。つまり480 nm付近のピークはLED青色光によるもの,500 nmより長波長側の幅広いスペクトルは蛍光物質によるものである。

(3)病室における照明への配慮
病室の明るさはJIS基準で決められており,療養環境の基準は満たさないといけない。ただし,その基準がLED電球に対応できているかどうかは不明である。
網膜に対する光障害は様々な要因が複雑に絡み合うため,計算で出される数値が前述のように独り歩きする危険性がある。電球を見つめる場合と眩しさを避ける場合でも異なる。また照明器具から眼までの距離,入射角度,網膜面に結像する場合としない場合で,radiant exposure(放射露光量=放射照度×時間)の値は100~1000倍以上も異なる。
小児では水晶体も透明で高齢者に比べ多くの光が入り込む。寝たきりの患者の場合,照明器具を直接見つめる可能性もある。たとえば,太陽が真上にある場合,1日当たりの許容曝露時間は0.82秒とされている(文献3)。しかし,このような悪条件が重なったとしても太陽光に含まれる青色光と,照明器具,コンピュータ,液晶モニター,スマートフォン,タブレット端末などの人工的な青色光の照度には桁違いに大きな差がある。
このことから,テレビ,パソコン,携帯電話などの液晶画面には恐らく危険はないであろうし,LED電球も問題ないと思われる。LEDの天井灯には光色を簡単にリモコンで連続的に変えることができるものもあるので,生活パターンや時間帯により,光色を選ぶとよいかもしれない。
青色光に対する過度な危険視に惑わされることなく,risk-benefit balanceを考慮した光照度の設定が必要と考える。

【文献】


1) Brainard GC, et al:J Neurosci. 2001;21(16): 6405-12.
2) 社団法人日本照明委員会:照明学会誌. 2010;94(4): 240-4.
3) Okuno T:Appl Opt. 2008;47(16):2988-92.

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