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集束超音波治療のメリット・デメリット,将来性【高齢者の本態性振戦の治療として重要な位置を占めると思われる】

No.4789 (2016年02月06日発行) P.61

平 孝臣 (東京女子医科大学脳神経外科教授)

登録日: 2016-02-06

最終更新日: 2021-01-05

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【Q】

集束超音波による本態性振戦治療の臨床研究が行われています。機器のタイプは異なるようですが,子宮筋腫,前立腺癌治療もできるようです。本治療のメリット,デメリットなどの解説と今後について,東京女子医科大学・平 孝臣先生のご解説をお願いします。
【質問者】
齋藤洋一:大阪大学大学院医学系研究科 脳神経機能再生学教授

【A】

超音波を体内の1点に集中して照射し,それによって生じる局所の温度上昇で組織の熱凝固を行う治療を集束超音波治療(focused ultrasound surgery:FUS)と呼んでいます。国内では子宮筋腫の治療として薬事承認を受けていますが,有痛性骨転移癌による疼痛の除痛などにも応用され,その他様々な臨床応用が期待されています。脳へのFUSは古くから試みられていましたが,頭蓋骨での超音波の吸収や散乱,屈折などのために困難でした。しかし近年,CTによる頭蓋骨データとMRIとを組み合わせて補正することで精度を確立するという技術が開発され,脳の視床Vim核という部位に集束超音波を照射して,薬剤抵抗性の本態性振戦(essential tremor:ET)を治療するという臨床研究が国内外で進められています(国内4施設)。Vim核は定位脳手術という方法で電気的に直接熱凝固すると振戦が停止することが確立されており,ETは振戦以外の症状がなく評価しやすい,などの理由で最初の研究対象となりました。今後はパーキンソン病,ジストニア,難治性強迫神経症,難治性疼痛などの治療の研究が検討されています。
治療は,3 tesla MRI装置に据えつけたヘルメット型の超音波発生装置に頭部を入れて,冷却水で頭部を冷却しながら行います。振戦に対するFUSのメリットとしては,(1)手術に比べて低侵襲で入院期間が2泊程度と短いこと,(2)超音波の出力を調整しながらMRIで実際にリアルタイムに脳内の局所の温度変化がモニターでき,Vim核周囲の錐体路や視床感覚中継核を避けることができること,などが挙げられます。1mm以内の精度で目的部位への超音波照射が可能です。ただし現時点では,出血傾向や抗血小板薬服用中のような例は対象から除外されます。デメリットとしては,(1)頭部の全剃毛が必要なこと,(2)日本人の頭蓋骨の特性から超音波が十分到達しない例があること,(3)治療全体として3~6時間程度かかり,この間MRI装置を占有すること,(4)専門の技術スタッフチームが必要なこと,(5)頭蓋内中心部の数mm以内の大きさの部位への照射に限られるなどの制限があること,などが挙げられます。
高齢化の影響で高齢者の生活のパターンも変化し,従来は看過されてきた手のふるえがQOLを非常に阻害することから,治療を希望する高齢者が激増しています。65歳以上ではETの有病率は5~14%と非常に多く,自分で食事が摂れない,水を飲めない,などの重篤な患者も多く,字が書けない,人前で食事ができないなどの理由で引きこもりがちになっている人が大半です。このような場合の治療として,FUSは今後ますます重要な位置を占めることと思います。
現時点では臨床研究として厳しい患者選択基準が設けられ,誰でもがすぐに治療を受けられる段階にはありません。しかし,脳へのFUSは近い将来,様々な機能的神経疾患の治療として不可欠なものとなると考えられますし,脳腫瘍,脳塞栓溶解,ドラッグデリバリーなど,様々な方面への応用が期待されています。

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