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降下性壊死性縦隔炎に対する外科治療【初診時から洗浄ドレナージ後もCTによる経過観察が必要】

No.4788 (2016年01月30日発行) P.65

山本 滋 (昭和大学医学部外科学講座呼吸器外科学部門 准教授)

登録日: 2016-01-30

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

縦隔炎は気道損傷や食道穿孔,心大血管手術後など様々な疾患に引き続いて起こります。中でも,抜歯後の感染や扁桃腺炎など口腔・頸部などの感染が縦隔へ波及するような形態をとる降下性壊死性縦隔炎は,頻度は高くないものの,ひとたび罹患すれば重篤で生命に危険が及ぶ病態となることも少なくありません。そこで,降下性壊死性縦隔炎に対する最近の治療について,昭和大学・山本 滋先生のご意見を頂きたいと思います。胸腔鏡下手術の役割も含めてご教示下さい。
【質問者】
山田勝雄:国立病院機構東名古屋病院呼吸器外科医長

【A】

降下性壊死性縦隔炎(descending necrotizing mediastinitis:DNM)の原因疾患として,歯原性膿瘍,咽後膿瘍や扁桃周囲膿瘍など口腔や頸部などの感染が多くみられます。膿瘍が筋膜間隙に沿って縦隔へ下降すると,しだいに壊死性膿瘍を形成し,さらに敗血症を引き起こします(文献1)。下降の経路には,気管前経路,傍血管経路,傍食道経路があります(文献2)。頸部膿瘍では炎症による症状や嚥下困難などがみられますが,咽後膿瘍では頸部症状が少ないこともあり,注意を要します。
DNMの多くは混合感染で,Streptococcus属,Staphylococcus属,嫌気性菌ではBacteroides属,Peptostreptococcus属,グラム陰性菌ではPseudomonas属などが原因菌として検出され,歯原性の場合にはβ溶連菌も検出されます(文献1,2)。糖尿病,肝硬変,重喫煙,ステロイドや免疫抑制薬の投与中などがありますが,特に既往歴や基礎疾患のない患者でもみられます。
日常の診療の中で,内科や耳鼻科の外来患者にもDNMとなりうる可能性が潜み,ひとたび起これば重篤で,10~20%の割合で死に至る怖い病態です。診断が遅れると刻々と病態が悪化し死亡率も増加するので,迅速かつ適切な治療が必要です。
DNMの部位診断とドレナージ方法については,遠藤ら(文献2) によって以下に示す3型に分類されています。
(1)DNMの部位診断
type Ⅰ:気管分岐部より頭側の上縦隔に限局している限局型。
type Ⅱ:尾側の縦隔にまで及んでいる広汎型。この広汎型は,さらにtype ⅡA:前縦隔主体の前縦隔型と,type ⅡB:食道近傍を通して下縦隔まで及んでいる後縦隔型に分類されます。
(2)DNMのドレナージ方法
ドレナージでは,type Iは頸部アプローチのみ,type ⅡAに対しては剣状突起下アプローチ,type ⅡBではさらに経胸腔アプローチを追加,とされています。この中で,type ⅡAに対しても経胸腔アプローチを行うほうが死亡率を低下させるという報告もあり(文献3,4),自験例でも上縦隔が貯留物により緊満することが多く,縦隔胸膜に切開を加えてドレナージすることが望ましいと思われ,type Ⅱでは経胸腔アプローチが必要な症例も数多くあると考えます。
近年では,経胸腔アプローチでのドレナージの際,胸腔鏡下手術によって,より侵襲の少ない胸腔洗浄・ドレナージが効果的に行えるようになっています。
DNMは刻々と進行するので,初診時から洗浄ドレナージ後も,炎症反応をみながら,48~72時間ごとにCTによる経過観察が必要となります。ドレナージが不十分で新たな貯留が出現すれば,複数回の手術が必要となり,より侵襲の少ない胸腔鏡下手術はとても有用になります。
(3)他科との密な連携と迅速な対応の必要性
最後に,DNMの治療においては呼吸器外科だけでなく,耳鼻咽喉科,呼吸器・感染症内科,麻酔科,放射線診断科,歯科など様々な診療科との密な連携と迅速な対応が必要です。診断が確定できなくてもDNMを疑った際には,胸腔鏡下手術の可能な医療機関へ速やかに相談して頂くことが救命率を上げることにつながると考えています。

【文献】


1) 野中 誠, 他:日集中医誌. 2008;15(1):41-8.
2) 遠藤俊輔, 他:日本気管食道科学会専門医通信. 2008;36(5);15-22.
3) 加賀基知三, 他:胸部外. 2011;64(8);752-7.
4) Misthos P, et al:J Oral Maxillofac Surg. 2007;65(4):635-9.

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