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原発性肺癌におけるリンパ節郭清の意義

No.4774 (2015年10月24日発行) P.57

近藤晴彦 (杏林大学医学部外科学(呼吸器・甲状腺外科) 教授)

登録日: 2015-10-24

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

原発性肺癌におけるリンパ節郭清の意義とエビデンスについて,杏林大学・近藤晴彦先生のご教示をお願いします。
【質問者】
長谷川誠紀:兵庫医科大学呼吸器外科教授

【A】

リンパ節郭清の意義については,一般に,(1)possible cureと(2)accurate stagingの2点があります。すなわち,治癒を期待して転移リンパ節を切除することと,切除によってリンパ節転移の有無が確定することです。癌種によって(1)と(2)の要素の割合は異なっており,たとえば,所属リンパ節転移があっても全身散布潜在率が低い胃癌や大腸癌では,積極的なリンパ節郭清がなされ,リンパ節転移の存在イコール潜在的全身散布とみなされるような乳癌などでは,staging目的のリンパ節サンプリングが行われます。
肺癌における縦隔リンパ節郭清(mediastinal lymph node dissection:MLND)の意義については,いくつか縦隔リンパ節サンプリング(mediastinal lymph node sampling:MLNS)との無作為比較試験があります。Izbickiら(文献1) はMLNDのほうが若干は生存曲線が上にあるものの差がないと報告しており,Wuら(文献2) はMLNDはMLNSに比し,有意に予後を改善すると報告しています。
最新のものとしてはAmerican College of Surgeons Oncology Group(ACOSOG)Z0030研究があります(文献3)。このstudyはcN0-1の非小細胞肺癌の術中にまずMLNSを行い(それが北米における推奨標準治療),術中迅速病理にて転移陰性のときにMLNDを加えるかどうかをrandomizeしたもので,MLND追加により切除リンパ節個数は多くなるが,特に合併症は増加しない,ただし,長期予後にも有意差は認めなかったというnegative studyでした。この研究は,実はMLNSすら広くは行われていない北米において,少なくともMLNSを,できればMLNDを行うべきということがその意義とも言えます。
わが国では,以前は「治癒切除の要件にはMLNDが必須」と取扱い規約に記載されていたように,もともとMLNDが普及しています。しかし,近年は,実地臨床としては,同じ肺癌でも,CT上のすりガラス病変のようにリンパ節転移はまずゼロなので郭清不要と考えられる症例もあります。あるいは,念のためのMLNSでよいもの,リンパ節転移があるがpossible cureを狙ってしっかりとMLNDを行うべきものなど,MLNS/MLNDにおいて「さじ加減」が必要と考えます。
具体的には郭清の程度と郭清範囲についてのメリハリです。郭清程度に関して,possible cureをめざすときは,気管支動脈も含めてen-blocに郭清していわゆる“skeletonization”的郭清を行いますが,staging主体のときは「つまみ取り」的にリンパ節のみを切除し傍気管支などの結合織は温存するといった具合です。範囲については,転移があっても切除することで予後改善が期待できる場所を重点的に郭清し,転移率が低いあるいは転移があったら郭清しても予後不良と思われるような場所には手をつけないことで,郭清に伴う気管支虚血・断端瘻などの重大合併症発生率を上げないことがプロのこだわりだと思っています。

【文献】


1) Izbicki JR, et al:Ann Surg. 1998;227(1):138-44.
2) Wu Yl, et al:Lung Cancer. 2002;36(1):1-6.
3) Darling GE, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2011;141(3):662-70.

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