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悪性胸膜中皮腫に対する外科治療EPPとP/D

No.4771 (2015年10月03日発行) P.59

長谷川誠紀 (兵庫医科大学呼吸器外科教授)

登録日: 2015-10-03

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

悪性胸膜中皮腫の外科治療の意義と術式には議論があります。現時点の標準治療をどう考えればよいでしょうか。また,胸膜肺全摘術(extrapleural pneumonectomy:EPP)と胸膜切除/肺剥皮術(pleurectomy/decortication:P/D)の術式選択基準の確立や比較試験はどの程度進んでいるのでしょうか。兵庫医科大学・長谷川誠紀先生のご教示をお願いします。
【質問者】
中村廣繁:鳥取大学医学部器官制御外科学講座 胸部外科学分野教授

【A】

悪性胸膜中皮腫の外科治療に関する現在の問題点は以下の2つです。
(1)そもそも手術が生存率改善に寄与するか否か?
(2)2つの術式(EPPおよびP/D)の選択基準は?
(1)について:この疑問の根本は,中皮腫に対するいかなる手術も根治術ではありえず,手術のゴールが肉眼的完全切除であることにあります(文献1)。EPP対no-EPPを直接比較する唯一のランダム化比較試験であるMARS試験において,EPPは有害で生存率向上に寄与しないと結論づけられました(文献2)。しかし,この試験はもともとランダム化割り付けが実施可能か否かを検証する試験で,群間の優劣を検出するパワーはなく,試験の内容・解釈にも異論が多くあります。
(2)について:術式選択に関する混乱の原因は,従来,P/Dが姑息治療と位置づけられていたのに,現在では治癒目的で行われていることにあります。現時点ではEPP+化学療法+放射線治療,またはP/D+化学療法のいずれかを選択する施設が多いのですが,標準治療として確立されたものはありません。2つの術式を直接比較するランダム化試験は存在せず,今後の動向については不明ですが,より低侵襲なP/Dを行う施設が増加する傾向です。
現時点で最新のガイドラインであるIMIG-statement(文献3)では,(1)について「外科治療は中皮腫集学的治療において重要な役割を担う」と肯定し,(2)については「EPPとP/Dの選択は患者背景や臨床状況により個々に判断すべき」としています。
現時点での私たちの施設の術式決定基準は「肉眼的完全切除が達成される範囲内での最小侵襲術式を選択する」で(文献4),最近2年間の中皮腫手術38例中4例がEPP,34例がP/Dでした。
わが国の臨床試験は,EPPおよびP/Dの安全性確認試験がいずれも主要エンドポイントを達成する形で終了しており,EPPとP/Dの比較試験は現在検討中です。
(1)EPPを含む集学的治療の安全性確認試験 (JMIG0601試験,2006~10年度)(文献5)
(2)P/Dを含む集学的治療の安全性確認試験 (JMIG1101試験,2011~13年度)(文献6)

【文献】


1) Sugarbaker DJ:J Thorac Oncol. 2006;1(2):175-6.
2) Treasure T, et al:Lancet Oncol. 2011;12(8): 763-72.
3) Rusch V, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2013; 145(4):909-10.
4) Hasegawa S:Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2014; 62(9):516-21.
5) Yamanaka T, et al:Jpn J Clin Oncol. 2009;39 (3):186-8.
6) Shimokawa M, et al:Jpn J Clin Oncol. 2013;43 (5):575-8.

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