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膵癌化学療法のレジメン選択

No.4770 (2015年09月26日発行) P.61

福冨 晃 (静岡県立静岡がんセンター消化器内科医長)

登録日: 2015-09-26

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

近年,膵癌の化学療法には新規のレジメンが登場し,治療成績の向上に寄与しています。2014年12月にナブパクリタキセル(nab-paclitaxel)が承認され,わが国においてもゲムシタビン(gemcitabine:GEM)+ナブパクリタキセルが治療選択肢に加わりましたが,複数あるレジメンの選択はどのように行われているのでしょうか。静岡がんセンター・福冨 晃先生のご教示をお願いします。
【質問者】
石川 剛 京都府立医科大学大学院医学研究科 消化器内科学講師

【A】

[1]化学療法の選択肢
切除不能・再発膵癌に対する化学療法の選択肢が追加され,延命効果が得られるチャンスが増えたという点では喜ばしい反面,医療者にとっては,個々の患者に対して,いかに適切な薬剤を選択するかという重要な判断が求められるようになりました。膵癌においては,“肺癌におけるEGFR遺伝子変異”や“大腸癌におけるRAS変異”のような,治療薬を選択する上での有用なバイオマーカーがいまだ存在しないため,個々の患者の状態や希望を十分に考慮した上で,より有効性の期待できるレジメンの選択が望まれます。
現在,日常臨床で選択可能な治療レジメンとしては,GEM単独療法(G単独),S-1単独療法(S単独),GEM+S-1併用療法(GS),GEM+エルロチニブ併用療法(GE),FOLFIRINOX療法[注],GEM+ナブパクリタキセル併用療法(GnP)が挙げられます。
[2]有効性からみた比較
これまでに報告された臨床試験の治療成績の比較から,遠隔転移例に対する有効性(延命効果)はFOLFIRINOX or GnP>GE>S単独≒G単独,局所進行例に対してはFOLFIRINOX or GnP>S単独≒G単独,と考えられます。FOLFIRINOXとGnPの優劣については,G単独に対するハザード比を比較すればFOLFIRINOX>GnPとなりますが,FOLFIRINOXの臨床試験には年齢やperformance status(PS)などの患者選択バイアスが含まれている可能性があるため,明確な結論は出せません。GEは近年報告された臨床試験(LAP07試験)の結果から,局所進行例に対する治療効果は否定的と考えられています。GSはG単独を上回る延命効果を示すことができなかったものの,局所進行例に限定すれば有効性を示唆するデータも報告されています。が,現時点では十分な検証が行われたとは言えず,その位置づけは明確ではありません。
一方,FOLFIRINOXやGnPは,局所進行例に対する有効性の検証はなされていないものの,それを示唆するデータも報告されつつあり,遠隔転移例に対して示された確かな延命効果をふまえて,National Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインでも局所進行例に対する治療選択肢に含められています。
[3]考慮すべき副作用やレジメンの特徴
治療レジメンを選択する上では,個々の患者への適応を,そのレジメンの副作用や特徴を考慮して判断する必要もあります。
(1)FOLFIRINOX
血液毒性,消化器毒性とも最も強く出現するため,PS,年齢,骨髄機能や黄疸・下痢の有無などを十分に考慮すべきであり,イリノテカン塩酸塩水和物の代謝に関与するUGT1A1の遺伝子多型に関しても事前のチェックが必要です。また,イリノテカン塩酸塩水和物は胆汁排泄型の薬剤であり,胆道の閉塞や胆管ステントトラブルにより有害事象が増強される可能性があるため,膵頭部癌症例や胆管ステント留置例ではより注意が必要とされ,有害事象に対する適切かつ迅速な対応が求められます。ポート留置の必要性,初回は入院治療となること,末梢神経障害のリスクなどについても,患者に十分説明する必要があります。
(2)GnP
G単独と比べ,血液毒性や下痢が強く出現する可能性があり,FOLFIRINOXほどの厳しい患者選択は必要ではないものの,一定の全身状態が求められます。また,末梢神経障害のリスクや脱毛に関する情報提供も必要です。
(3)GE
G単独と比べ,口内炎や下痢など消化器毒性の増強と皮疹の出現が予測されます。間質性肺炎のリスクも高まり,特に喫煙歴や肺疾患(間質性肺疾患,肺気腫,COPD含む)の合併・既往,転移臓器3個以上,などが危険因子と考えられます。
(4)S単独
消化器毒性に注意が必要ですが,血液毒性は最も軽い点がメリットです。ただし,内服可能である必要があり,腎機能に注意が必要です。
(5)G単独
S単独とは逆に,血液毒性がみられるものの消化器毒性は比較的少なく,PS低下例に対しても投与を考慮してよいレジメンと考えられます。間質性肺炎のリスクがあり,ベースに間質性肺炎や肺線維症の合併・既往がある場合は慎重な対応が必要となります(臨床症状を伴う場合は禁忌)。
[4]患者への十分な説明と適切なレジメン選択
以上をふまえて,まず個々の患者のPS,年齢,症状,骨髄・肝・腎機能,合併症を評価してから,FOLFIRINOXの適応が考慮されるような場合には,UGT1A1遺伝子多型の検査も行います。その結果,不適切と考えられるレジメンを除き,候補となるすべてのレジメンの治療方法と有効性,副作用を患者に説明するようにしています。
有効性の高いレジメンを勧めたいところですが,個々の患者によっては,治療方法(内服か点滴か,入院・ポート留置の必要性,投与時間・頻度など)や副作用の内容が重要視される場合もあります。職業や性別によっては,生命の危険性は少なくても末梢神経障害や脱毛,皮疹などが重要な情報となる場合もあります。説明する時間はかかってしまいますが,適切な治療選択を行うために十分な時間をとるようにしています。

[注]FOLFIRINOX療法:L-OHP(オキサリプラチン),CPT-11(イリノテカン塩酸塩水和物),5-FU(フルオロウラシル),l-LV(レボホリナートカルシウム)併用療法

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