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膵癌の化学療法

No.4760 (2015年07月18日発行) P.60

桐島寿彦 (京都市立病院消化器内科副部長)

登録日: 2015-07-18

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

最近の膵癌の化学療法にはどのようなものがあるでしょうか。京都市立病院・桐島寿彦先生にご解説をお願いします。
【質問者】
城 正泰:大津市民病院消化器内科医長

【A】

膵癌に対する薬物療法としてはゲムシタビン(gemcitabine:GEM),S-1,GEM+エルロチニブ(erlotinib),FOLFIRINOX(FFX),nab-パクリタキセル(nab-paclitaxel:nab-P)+GEMがあります。
1996年にBurrisら(文献1)が5-FU(5-fluorouracil)に対してGEMが臨床的に有効であることのみならず,生存期間も有意に延長することを報告して,GEMが膵癌の標準治療になりました。その後,エルロチニブとの併用により有意に生存期間を延長することが示されましたが,その差はわずかで有害事象や高コストであることから,標準治療とするコンセンサスは得られていません。
2010年にACCORD11試験においてFFXの有効性が報告されました。生存期間中央値(median survival time:MST)FFX/GEM 11.1/6.8カ月〔haz-ard ratio(HR)=0.57,95%CI:0.45~0.73〕,奏効率(response rate:RR)31.6/9.4%(P=0.001),無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)6.4/3.3カ月(HR=0.47,95%CI:0.37~0.59)とFFXが良好でしたが,Grade 3/4の有害事象は好中球減少45.7/18.7%,発熱性好中球減少症5.4/0.6%,疲労23.2/14.2%,下痢12.7/1.2%とFFXで高頻度でした。
わが国で実施されたFFXの第2相試験では有効性はほぼ同じですが,好中球減少77.85%,発熱性好中球減少症22.3%と,ACCORD11試験と比べ高頻度でした。また,ACCORD11試験ではFFXはQOLの悪化を有意に遅らせることが示され,Attardら(文献2)はFFXはGEMと比べて薬剤費は高いが,質調整生存年(quality adjusted life years:QALY),費用対効果に優れると報告しています。
2011年には,わが国からGEST試験でGEMに対するS-1の非劣性(HR=0.96,97.5%CI:0.78~1.18,P<0.001)が証明され,標準治療の1つになりました。
その後,2013年にMPACT試験でnab-P+GEMの有効性が報告されました。MST nab-P+GEM/GEM 8.5/6.7カ月(HR=0.72,95%CI:0.617~0.835),RR 23/7%(P=1.1×10-10),PFS 5.5/3.7カ月(HR=0.69,95%CI:0.581~0.821)とnab-P+GEMが良好で,Grade 3/4の有害事象は好中球減少38/27%,発熱性好中球減少症3/1%,疲労17/7%,末梢性感覚性ニューロパチー17/<1%とFFXに比べて軽い傾向にありました。
PS(performance status)不良あるいは高齢の患者さんに対して,GEMが標準であることに変わりはありませんが,PSが良好な患者さんに対してFFXとnab-P+GEMをどう使いわけるかが今後の検討課題です。RR,MST,毒性プロファイルなどレジメンの特性,年齢,PS,併存疾患,許容できる有害事象などの患者要因と,レジメンへの習熟度,有害事象の管理といった治療医側の要因を総合的に判断して治療法を選択する必要があります。

【文献】


1) Burris HA 3rd, et al:J Clin Oncol. 1997;15(6): 2403-13.
2) Attard CL, et al:Curr Oncol. 2014;21(1):e41-51.

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