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高齢者の肝細胞癌に対するソラフェニブの適応

No.4753 (2015年05月30日発行) P.58

城 正泰 (大津市民病院消化器内科医長)

登録日: 2015-05-30

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

肝細胞癌に対する分子標的治療(ソラフェニブ)の高齢者への適応について,大津市民病院・城 正泰先生のご教示をお願いします。
【質問者】
光本保英:大阪府済生会吹田病院消化器内科部長

【A】

ソラフェニブは血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)の発現を抑制し腫瘍血管新生を制御することと,Ras/Raf/MEK/MAPKに作用し腫瘍細胞の増殖を抑制すること,という2つの機序によって肝細胞癌に対する抗腫瘍効果を示す分子標的治療薬です。
2つの大規模ランダム化第3相試験であるSHA RP試験(文献1),Asia-Pacific試験(文献2)において,プラセボとの比較によって生存期間の延長が確認され,わが国でも2009年より保険適用となっています。切除不能肝細胞癌の標準的治療の1つとなっており,特に,肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization:TACE)不応例や遠隔転移のある症例に用いられることが多いと思います。
近年,肝細胞癌患者の高齢化に伴い,高齢者症例でソラフェニブ導入を検討する機会が増えてきました。高齢者の進行肝細胞癌に対するソラフェニブ治療の効果と安全性については,いくつかの臨床研究で検討されています。主な報告では,減量投与で安全に治療が行えて効果にも差がないとする結論が多いようです。
私たちも多施設共同研究として,ソラフェニブ治療を行った患者さん185例を80歳以上と80歳未満にわけて,後方視的に比較検討しました。その結果,臨床背景は80歳以上の人が軽い進行度(stage)で,減量して開始している症例が多いコホートでしたが,両群間で効果(最良効果,生存期間中央値)および安全性(有害事象発生頻度,中止率)に差はありませんでした(文献3)。
以上より,適正使用の条件〔Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)-performance statusが0 or 1,肝機能がChild-Pugh分類Aなど〕を満たせば,高齢者でも投与可能と考えます。開始量については議論があるところですが,特別な理由(低体重や注意すべき併存疾患など)がなければ,標準量から開始しています。
重要な点は,投与開始後のフォローを頻繁に行い,有害事象に応じて用量調節し,効果のある症例が早期に治療中断されないようにすることだと思います。

【文献】


1) Llovet JM, et al:N Engl J Med. 2008;359(4): 378-90.
2) Cheng AL, et al:Lancet Oncol. 2009;10(1):25-34.
3) Jo M, et al:Hepatol Res. 2014;44(13):1329-38.

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