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『美味しんぼ』騒動の火消しに終わってはならない [お茶の水だより]

No.4702 (2014年06月07日発行) P.14

登録日: 2014-06-07

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▼「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)に連載中のグルメ漫画『美味しんぼ』の描写は、大型連休前後の社会に大きな衝撃を与えた。取材で福島県を訪れた主人公が突然鼻血を出し、実名で登場する井戸川克隆前双葉町長が「被ばくしたからですよ」など刺激的な発言を繰り出す場面があったからだ。これに対し「風評被害をいたずらに拡大する」などとして、閣僚まで巻き込んだ論争の嵐が吹き荒れた。
?この騒動を受け、自民党環境部会は原発事故前後における鼻血の頻度を比較できるデータを提出するよう、原発周辺地域を所管する相馬郡医師会に依頼した。同医師会は5月23日、管内の南相馬市、相馬市、新地町、飯舘村の66医療機関を対象にアンケート調査を実施。その結果は、大町病院(南相馬市)の猪又義光院長によって、30日の部会に報告された。
▼回答のあった52施設のうち49施設は、事故前と比較して、鼻血の頻度が多くなったと訴える受診者は「増えていない」と回答。残りの3施設は「増えた」としたが、被ばくとの関連が疑われる血小板減少性紫斑病の診断例はなく、「事故前後で鼻血の頻度に有意な変化は認められない」と結論づけている。報告を受けた片山さつき部会長は、「『美味しんぼ』の描写に何ら科学的根拠のないことが立証された」と述べ、他の出席議員からも安堵の声が上がった。しかし、この調査で明らかになったのは、漫画の表現に科学的な裏づけがないことだけではないはずだ。
▼調査結果では、鼻血の患者が「増えた」と回答した医療機関に行った聴き取りの内容も紹介されている。その中では、「高血圧の高齢受診者が増えている」など事故後の患者層の変化が指摘されている。また、ある医療機関は、鼻血が増加してみえる要因を「長引く避難生活や環境の変化での疲労、高血圧症の増加等」であると分析。事故後3年を経てもなお、住民にのしかかるストレスが鼻血を含むさまざまな症状につながっているという現実が、調査を通じて改めて浮き彫りになったと言える。
▼部会での報告後、猪又氏は、放射線汚染が一番強い地域でこのような調査結果が得られたことを踏まえ、「『福島は安心』と言ってよい」と強調する一方で、「相馬の医者の少なさもよくわかった」と、いまだ万全とは言えない医療提供体制についても触れた。今回の調査を、単なる『美味しんぼ』騒動を鎮めるための姑息療法に終わらせることなく、依然として厳しい状況にある福島の医療環境の支援につなげたい。

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