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「医療費予算の1%を研究費に」 - 永井良三自治医大学長、「研究にはお金がかかる」 [臨床研究不正問題]

No.4813 (2016年07月23日発行) P.8

登録日: 2016-07-23

最終更新日: 2016-12-08

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【概要】永井良三自治医大学長が16日に都内で講演し、臨床研究の法規制をきっかけに国の医療費の1%を研究費に充てることを提案。臨床研究不正問題であるディオバン事件については「モラルの問題」と指摘する一方、臨床研究を巡る歴史的背景からも問題発生の要因を分析した。


講演は臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR、桑島巖理事長)の夏季セミナーで、「日本の医薬品開発と臨床研究の課題」と題して行われた。

●「締めつけばかりでは研究がシュリンクする」
永井氏(写真)によると、日本の臨床研究の歴史的背景から見たディオバン事件の要因の1つ目は医薬品行政の対応の遅れ。米国では1938年に米国食品医薬品局(FDA)が設立され、医薬品に関する問題に対処する一方、日本の医薬品に関する規制は、1960年の薬事法制定まで待たねばならなかった。
2つ目は、第二次世界大戦の総括の遅れ。欧米では、1947年ニュルンベルク綱領、1964年ヘルシンキ宣言など、戦中に生じた研究倫理の問題に対応してきたが、この問題に関しても「日本は後手に回った」とした。
3つ目は、大学紛争。1969年、東大がストライキを終結させるために学生代表と10項目の確認書を締結。この中に、資本の利益に奉仕する産学協同を否定する文言が盛り込まれていたため、「治験をしていると『人体実験をしている』と言われる風土があった」。こうした経緯により、「2004年の国立大学法人化まで臨床研究体制、治験体制、知財管理に関する対応が何もされてこなかった」と振り返った。その上で、臨床研究を法規制する臨床研究法案(用語解説)の必要性を認めつつ、「問題は、臨床研究をちゃんとやるとお金がかかるということ」と指摘。
永井氏は、社会保障費の増大に伴い国の研究費予算が頭打ちになっている現状に危機感を示し、「既存の研究予算は肥大化しているが、新人の研究にお金を出せていない」と述べ、「国の医療費予算の1%を研究に回せばいい」と提案。「お金がない中で(法案で)締めつけばかりしたら、研究がシュリンク(縮小)する。大胆な改革が求められているのではないか」と問題提起した。

●KHSの真相解明に「相当な時間とエネルギーと人を動員した」
このほか永井氏は、降圧剤ディオバンを用いたKyoto Heart Study(KHS)のサブ解析論文が日本循環器学会の学会誌に掲載(後に撤回)されていたことから、2012~13年にかけて同学会代表理事としてKHSの不正問題に厳しく対応した経緯も披露。名誉毀損で訴えられる可能性に十分注意した上で、研究実施大学の京都府立医大に強く調査を求めたほか、論文著者やノバルティスファーマ社員、イベント判定者など関係者を事情聴取したことを明かし、「相当な時間とエネルギーと人を動員し、真相解明に向かうことができた。学会としてやれることの限界を実施できた」と振り返った。


●用語解説
【臨床研究法案】
ディオバン事件など臨床研究不正問題を受け、臨床研究を法規制する法案が先の通常国会に提出され、継続審議の扱いとなっている。秋の臨時国会で審議される見通し。規制の対象となる「特定臨床研究」は、「未承認・適応外の医薬品等の臨床研究」と「製薬企業等から資金提供を受けた医薬品等の臨床研究」。モニタリングや利益相反管理に関する実施基準の遵守、記録の保存、大臣の認定を受けた「認定臨床研究審査委員会」の設置などを義務づける。

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