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「医療政策の手法がまったく変わってきている」 - 医師養成は今後を読む上で「重要なパーツ」 [権丈善一氏講演]

No.4809 (2016年06月25日発行) P.11

登録日: 2016-06-25

最終更新日: 2016-12-07

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【概要】現在政府が進めている医療・介護提供体制改革の基盤となった「社会保障制度改革国民会議」(2013年)で報告書の起草委員を務め、最近では厚生労働省の「医師需給分科会」構成員を務める権丈善一慶大商学部教授が昨今の医療政策をテーマに講演した。その要旨を紹介する。


●医療政策には専門職規範が不可欠
現在進められている医療・介護提供体制改革は、地域包括ケアと地域医療構想を両輪として進められているが、今までの医療政策とは手法がまったく異なっている。中央は制度や政策の「方針」を示すだけで、そこから先の細部は医療に携わる当事者と都道府県が協議して決めるというものに変わった。
医療は特殊な経済特性を持っている。個別性、情報の非対称性が強いため、経済学者が普通の経済モデルを適用しようとしても絶対にうまくいかない。医療提供体制改革を考える上では、どうしても当事者たる医療の専門家の視点や規範意識が重要になる。市場でもなく規制でもない、専門職規範を考えた制度設計が必要だ。
現在、厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」と「医師需給分科会」で、医師の地域・診療科偏在対策や必要医師数の議論がなされている。ここでも厚労省は従来と随分異なる姿勢を示している。地域医療構想の策定に当たっては、「この地域にはどんな機能の病床が何床必要」という報告が都道府県に上がってくる。そこからどの病床に何人の医師が必要だという風に、患者数と疾病構造に見合った形で必要医師数を算定している。地域医療構想が「理想の姿」であるかはさておき、まずあるべき医療の姿を描き、必要な医師の数が算出可能になってきた。厚労省も医師需給の推計をそうした考えに基づき出すようになった。
医師偏在と現場の医師不足感はともに高まっている。医師需給は“コップから溢れた分が地方に回っていく”ような、言い換えれば「市場任せ」のやり方では「もう十分」という地域と「まだ足りない」という地域がある状況が永遠に続く。医師養成は、今後の医療政策の流れを読む上で重要なパーツだ。

●医学部ばかりに優秀な人材を集めて大丈夫か
私は「地域医療崩壊」がよく言われていた2007年頃、医学部の偏差値について調べたことがある。1990年代以降、私立大医学部の偏差値の平均は上がり続け、合格者の最大偏差値と最小偏差値の差は縮まり続けている。背景には、バブル崩壊以降の労働市場の不安定化があるのだろう。親は子に、手に職を持たせたがるようになった。1997年に金融危機を経験した韓国でも医学部偏重が起こった。
医師養成の議論では、(医学部定員の)地域枠をもっと活用しようという提案が出てくるが、地域枠にはさまざまな種類がある。社会構造や大学入試を取り巻く環境の変化を考慮すると、医学部入学を従来通り自由化したままでは、地方の子は入試段階で都会の進学校に通う子に負けてしまう。地元出身者が優先的に入れる地域枠でなければ偏在対策にはならないだろう。
また、医療関係者には、医学部ばかりに優秀な人材を集めて大丈夫なのかということを考えてほしい。現在のように優秀な人材の大半が医師の道を選ぶ状況が続けば、工学系など他分野がボロボロになることは確実。そこまで考えた医師養成の制度設計の工夫が必要だと思う。

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