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「エビデンスと実臨床の乖離」を議論 - RCT対象患者の除外基準が話題に [J-CLEAR発足5周年記念シンポジウム]

No.4755 (2015年06月13日発行) P.7

登録日: 2015-06-13

最終更新日: 2016-11-24

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(概要) NPO法人臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)が「EBMのジレンマ─エビデンスと実臨床の乖離」をテーマに議論。桑島理事長は「EBMは変革期を迎えている」との認識を示した。


5月30日に都内で開かれたシンポジウムには、J-CLEARの桑島巖理事長、植田真一郎副理事長、後藤信哉副理事長が登壇した。

●高齢者医療は個別医療、薬局との協働不可欠
桑島氏は、EBMの概念が登場した1996年と比べ、現在は社会情勢が大きく変化したと指摘。超高齢社会の進行で、多数の除外基準をクリアした画一的な患者集団を対象にした大規模臨床試験の結果と、既往症や薬物反応性、家族環境など個人差が大きく多様性に富む高齢者診療に乖離が生じているとした。さらに、経済競争が激化したことで、EBMの営利利用が進んでいることや、後発品が登場するまでに売り切るために、宣伝合戦が加熱していることを問題視した。
その上で今後は個別的医療の重要性が増すと強調。「高齢者は特に合併症への配慮が必要で、そのためにも調剤薬局との協働作業が不可欠。調剤薬局の薬剤師が患者の病態を把握して医師とダブルチェックをしなければいけない」と述べ、現在J-CLEARで薬剤師向け研修会に力を注いでいることも紹介した。

●治験の安全性=診療現場での安全性ではない
植田氏は、新薬や未承認薬の薬効評価を行う“治験”と、臨床的疑問に基づく“臨床研究”は役割が異なり、厳密なランダム化比較試験(RCT)による治験結果は、診療現場で同じ安全性を担保しているわけではないと指摘。理由として、治験は「厳しい除外基準で選択された患者が対象」「日常診療では非現実的な治療法を比較」などと説明した。
植田氏は、「RCTの対象にならない患者を含めた評価を行うのが観察研究の役割」と述べ、アウトカムと変数の関連をテストし、多様な患者で安全性、有効性などを評価するのにふさわしい研究としてコホート研究を提示。「研究の目的をはっきりさせて、研究のデザインをすることが重要」と強調した。

●日米欧の「相同性」「相違」にコンセンサスなし
後藤氏は、欧米のRCTの結果が日本人に適応できるかどうかについて問題提起。世界的な製薬企業でも日本と欧米の「相同性」と「相違」のどちらに注目するかコンセンサスがないことを紹介した。例えば、経口抗凝固薬のリバーロキサバンは国際共同試験とは別に日本で試験が行われ、欧米と日本では承認用量が異なる。一方、同じ経口抗凝固薬のアピキサバンは日本も参加した国際共同試験により欧米、日本ともに同用量で承認された。
後藤氏は、「EBMですべてを説明できるようになっていない現状では、職人的で(患者ごとに)個別最適化能力がある臨床医を育てる日本の教育システムを次世代に残すことが重要ではないか」と提案した。

【記者の眼】後にデータ操作が判明するKyoto Heart Studyが広く宣伝されていた2009年9月、「こんな試験が広まってはいけない」という危機感から設立されたJ-CLEAR。シンポでは、日医常任理事や武田薬品工業社員がフロアから質問に立ち、“エビデンスを正しく評価する”ニーズの広がりを感じた。(N)

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