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【識者の眼】「『サブスク労働』から脱却せよ」榎木英介

No.5249 (2024年11月30日発行) P.65

榎木英介 (一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)

登録日: 2024-11-11

最終更新日: 2024-11-11

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SNS、特に旧TwitterであるXを見ていると、定期的に炎上する話題がある。その1つが子育て中の時短勤務医師、いわゆる「ママ医」に関するものだ。「ママ女医」とも称されるが、現在は「女医」という表現は差別的な用語なので、使用すべきではない。しかし、そういう差別用語さえ使われることに、この問題の課題が凝縮されている。

論争は以下のようなものだ。「ママ医」は一般の医師に仕事を押しつけて早く帰ってしまう。子どものいない医師や、子育てをパートナーにまかせっきりの医師が残りの仕事をカバーしているのに給料はさほど変わらない。だから「ママ医」はひどい、ずるいとなる。

時短勤務で契約したなら、時間が来たら帰宅するのは当然だ。何ら問題はない。にもかかわらず批判されるのは、ほかの医師たちの契約があいまいだからだ。負担が多く時間外の仕事をするならば、時間外報酬を支払うべきだし、業務量が多すぎて捌ききれないのなら、病院管理者が責任をもって対処すべきだが、そうしていない。本来、業務量は契約で取り決めるべきだが、意図的にか、不作為か、病院管理者はそこら辺をあいまいにし、医師個人の責任感ややる気に丸投げしている。それには動機がある。そうしたほうが医師を「サブスク(サブスクリプション)」、つまり使い放題で働かせることができ、安上がりになるからだ。

こうしたことへの不満が経営者、管理者ではなく「ママ医」本人に向かうのは、医師の労働法に対する意識が乏しいからだ。こうした無知をいいことに、病院管理者が労務管理を放棄している。

本来常勤医師が1の働き方をし、時短勤務医師が0.5の働き方をしているなら、あわせて1.5の働きになる。ところが、いくら働いても定額ならば、0.5の働き方の医師はずるい、となる。「サブスク労働」では、発想が引き算になってしまうのだ。だから、0.5でも貴重な戦力であるはずの時短勤務医師などいらないとなってしまう。

いいかげん、こうした働かせ放題の「サブスク労働」は終わりにしよう。医師は雇用契約をしっかりと吟味し、適切な労務管理をせず契約にない働き方を要求する病院管理者にはノーと言うべきだ。「ママ医」論争は、こうした医療現場の不作為と矛盾のあらわれなのだ。

榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[労務管理][働かせ放題][サブスク労働]

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