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E型肝炎[私の治療]

No.5219 (2024年05月04日発行) P.38

松居剛志 (手稲渓仁会病院消化器病センター部長)

登録日: 2024-05-01

最終更新日: 2024-04-26

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  • E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus:HEV)はヘペウイルス科ヘペウイルス属に分類される小型球形ウイルスである。genotype 1型,2型は主に熱帯,亜熱帯地方,genotype 3型,4型はわが国を含め世界に広く存在する。HEVは急性肝障害の成因のひとつとして,常に念頭に置いておかなければならない。わが国ではブタ,イノシシ,シカが主な感染経路である。以前は北海道での感染が多くみられたが,近年は東京などでの感染も多くなってきている。多くは自然軽快すると考えられているが,genotype 4型を中心に重症化する症例があり,注意を要する。また,稀ではあるものの,神経障害や腎障害をはじめとした様々な肝外病変を合併することもある。

    ▶診断のポイント

    急性肝障害を疑った場合,E型肝炎を鑑別に挙げる必要がある。E型急性肝炎は他のウイルス性肝炎と同様に,初発症状として感冒症状で発症することが多い。また,HEV感染の感染経路と考えられる,十分に加熱されていない豚肉,鹿肉,猪肉を食したかどうかが診断につながることもあり,問診は重要である。

    わが国では2011年より抗HEV IgA抗体が保険収載となり,実臨床で使用可能となった。これ以降,抗HEV IgA抗体による診断が増加している。Takahashiらは抗HEV IgA抗体検査の成績について,E型肝炎68例と非感染者2781例で検討した結果,感度,特異度ともに100%であったと報告している1)。しかしながら,HEV IgA抗体が陽性となるまでの期間が存在するため,一度,測定結果が陰性であったとしても,後に陽性となる場合があるため,注意が必要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    急性肝炎で症状が強い場合や,急性肝不全への進行が考えられる場合には,入院加療を要する。具体的には,強い倦怠感,食思不振,瘙痒感,腹水貯留による腹部膨満,全身浮腫などの症状を有する症例は入院の上,対症療法が必要である。また,AST,ALTが上昇傾向にあり,PT活性値が60%未満で肝性脳症の出現の確認を要する患者は,入院にて経過をみて,必要な際には治療介入する。

    HEV感染による急性肝不全は,他のウイルス性肝炎によるものと同様に,肝臓の再生,修復が得られるまでの期間,肝機能補助の目的で,血漿交換療法や血液透析濾過治療が行われる。これらに加え,出血予防,感染には十分に留意する必要がある。

    内科的治療での救命が困難と思われる場合には肝移植が行われるが,急性肝不全昏睡型に陥った段階で,生体肝移植のドナー候補の選択や脳死肝移植の登録を行うことは,よりスムーズな肝移植への移行を可能とし,救命率向上に寄与すると考えられる。臓器移植後の免疫抑制状態で発症したHEV持続感染に対しリバビリンが有用とする報告も認められ,E型急性肝不全への投与に対する症例報告も存在するが,急性肝炎,急性肝不全での効果は,さらに検討が必要である。

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