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【識者の眼】「災害医療DXとフェーズフリー」土屋淳郎

No.5209 (2024年02月24日発行) P.58

土屋淳郎 (医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)

登録日: 2024-02-08

最終更新日: 2024-02-08

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能登半島地震から約1カ月が経ったが、医療ICT/DXは役立っているのだろうか? 昨年12月、筆者が受講した東京JMAT研修では災害時診療概況報告システムである「J-SPEED+」というスマホアプリの利用法について学び、東京都災害医療図上訓練ではGoogleスプレッドシートを利用した「事案管理シート」の試用が行われていた。災害医療におけるICT/DXについて目にすることが増えていると感じていたが、訓練の段階からICTを利用するという変化は既に始まっている。

震災時のICT利用は、電気と通信が利用できているという前提ではあるが、電気は9割復旧するまでに阪神・淡路大震災では2日、東日本大震災では6日だったと言われている。また、発電機、太陽光発電、蓄電池などの技術も進んでいる。通信については各キャリアの災害対策も進み、衛星通信によるブロードバンドサービスを提供する「Starlink」は、個人でも利用できるほどアンテナは小型で設置も簡単なため、実際に今回の震災でも被災地に持ち込み利用しているという報告もあった。

これらを考慮すると、フェーズ0(発災直後〜6時間)からフェーズ1(発災後6時間〜72時間)では一部の利用にとどまっても、フェーズ2(発災後72時間〜1週間程度)以降のICT利用は検討しておいたほうがよさそうだ。

しかし今回の震災では、Googleスプレッドシートを利用したクロノロジー(災害活動情報記録)は提供されていても、どの程度利用されていたかは不明である。オンライン診療については、避難した医師が被災地域に残る患者に対して行う、もしくはその逆の関係で行うケースはあったようだが、現場で支援する医師がオンライン診療に関わることは難しく、遠隔地の医師が支援することは想定されていないようだった。

また、マイナポータルから薬剤情報等の医療情報を閲覧できるようになっていたが、これにはマイナンバーカードが必要である。オンライン資格確認等システムの「災害時モード」を利用すればマイナンバーカードを持っていなくても氏名の他に薬剤情報や保険者番号等を確認できるが、オン資システムに接続されていないと利用できず、その施設は限られていた。使い慣れていないシステムを利用するのは難しいという側面もあるが、まだまだ災害対策の検討が必要な状況と言えるだろう。

以前の当コラム「災害とICT」(No.5055)にも書いたように、災害時には普段から使っているシステムを利用するとよいと言われているが、最近では日常時と非常時という2つのフェーズをフリーにする「フェーズフリー」という考え方が広まりつつある。今回の震災を契機にまた新たな対策が進むと思われるが、このフェーズフリーという考え方をふまえた上で検討していくとよいのではないだろうか。

土屋淳郎(医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)[災害時のICT利用]

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