株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「危機感を持って制度改革を」島田和幸

No.5204 (2024年01月20日発行) P.56

島田和幸 (地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)

登録日: 2024-01-09

最終更新日: 2024-01-09

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

限りある医療資源の下で、わが国が誇りとする国民皆保険やフリーアクセスを持続可能なものとするためには、地域完結型医療や地域包括ケアシステム、一次医療機関に“かかりつけ医機能”を発揮させる制度を整備すべきである、という「総論」はコンセンサスが得られている。人口が縮小し、かつ高齢化がさらに進行する社会においては、これらの制度が医療・社会・経済的に“無駄”を省き、最も合理的なシステムと思われるからである。

しかし、いざ実行に移そうとすると、ことは簡単には進まない。なぜなら、これらの医療改革は、それぞれの医療機関が独自に意思決定すればできるものではなく、2025年をめどにした地域医療構想のもと地域の医療機関同士で“調整”しなければならないからである。

現在進行している地域医療構想調整会議は、各医療機関が自主的に機能の役割分担を進めることを前提としている。しかし、各地の地域医療構想調整会議の実態は、地域の病期別病床数や外来機能について国が示した「標準的パターン」に合わせるのに精一杯である。結果として、地域の実情に応じた医療のビジョンや具体的改革についての認識や意欲の共有は不十分で、2025年以降に持ち越さざるをえない状況である。

国は、“経済の失われた30年”や“デジタル敗戦”、“人口縮小社会”に慌てて“異次元の社会改革”の必要性を訴えている。個別の問題解決では、たとえば診療報酬の改定率を巡っては、これをプラスにするかマイナスにするかと正反対の政策に分かれる現状がある。しかし心の底では、日本の地位がどんどん下がっている現実を突きつけられ、我々はやっと目が覚め、危機感を持ちはじめたのではなかろうか。

本当はこうあるべきという、理想とする目標と現実のギャップが大きすぎるとき、理想が未来のあるべき姿だとしたら、現実の制度が時代遅れになっていることの裏返しである。制度を変えるなら、相当思い切った変更をしなければならない。危機感は我々を大胆にさせてくれる。いったん、現在の制度を捨てて、新たな枠組みを構築するくらいの覚悟がなければ、失われた40年、50年が続く恐れがあるのだから。

島田和幸(地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)[地域医療構想調整会議][失われた30年][医療制度改革]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top