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医療政策とヘルスサービスリサーチとの関係【臨床医に伝えたいヘルスサービスリサーチ(12)】

No.5199 (2023年12月16日発行) P.38

杉山雄大 (国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センター・筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野)

登録日: 2023-12-18

最終更新日: 2023-12-13

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  • 1. はじめに

    これまでの11回にわたる連載の中で,ヘルスサービスリサーチ(health services research:HSR)に関するトピックを各執筆者がお伝えしてきた。本連載第1回(☞No. 5152参照)ではHSRの概念を,第2回(☞No.5156参照)ではHSRで用いる手法とデータソースについて,そして第3回(☞No.5160参照)以降は保健・医療・介護の各分野におけるHSRの概念と具体例について,それぞれの専門分野の経験を交えて述べた(表1)。

    今回の連載では「臨床医に伝えたい」と銘打った通り,臨床医を含む医療従事者や医療機関の管理者を読者として想定し,臨床家がヘルスサービスを提供する際,またはヘルスサービスに関する何らかの意思決定を行う際にHSRが有用な情報であることをご理解頂きたいと思い,筑波大学ヘルスサービスリサーチ研究室(田宮研究室)が中心となり,この連載を企画した。各執筆者には今回の執筆依頼の中で図1 1)を示し,趣旨を説明してきた。

    図の縦軸は個人内でのエフォートの割合であり,横軸は個人内でのポートフォリオを表している。多忙な臨床家の先生方はほとんどの時間が臨床活動となる場合が多いと思われるが,臨床をメインにしつつHSRを行う研究者もいれば,医師資格や専門医資格を持ちながら軸足をHSRに置く研究者も少なからず存在する。実際,本連載の執筆者は全員が医師であり,多くがHSRや疫学の研究者であると同時に臨床的な役割も担っている(表1)。本連載の読者の臨床家の先生方にも少しでも図の右側に思いを馳せて頂き,HSRの成果を臨床や意思決定に役立てて頂きたい。また,もし機会があればHSRを行う仲間になって頂きたいと思っている。

    一方,HSRの成果の受け手は臨床家だけではない。図1の中で「公衆衛生活動」に言及しているように,自治体や国の公衆衛生の実務家,政策立案者も,ヘルスサービスにまつわる意思決定を行う際,すなわち医療政策を検討し進める際にHSRが大いに助けとなることが多い。臨床家の先生方からすると,医療政策は少し縁遠く感じるかもしれないが,実際には医療のあり方を決めるのに深く関わっており,臨床家の先生方が参画する機会も多く存在する。

    最終回である本稿では,医療政策とHSRの関係について概説し,臨床家との関わりについても述べ,本連載のまとめとする。

    2. HSRと医療政策の関係

    図2は,筆者がHSRの大学院生向けの講義で使用しているスライドを一部改変したものである。

    図2の上段にある通り,医療にかかるべき対象には,転倒した人,お腹が痛い人のように明らかに必要を感じている人もいれば,中には自覚的には健康な人(例:健診でみつかるがん,脂質異常症など)もいる。これらのかかるべき対象が医療にかかることができるか否かが「医療へのアクセス」である。また,医療にかかったとしても,提供される「医療の質」が望ましくないレベルであると医療が患者に十分な益をもたらさず,場合によっては害となることもある。加えて,「医療のコスト」が低廉でないと,アクセスを妨げる原因になるとともに,保険で自己負担は軽減されるとしても医療費の高騰につながる。

    HSRはこれらの医療へのアクセス・医療の質・コストの現状を示し,改善の方策を模索することに貢献する。具体的には図2の中段にあるように,アクセス・質・コストの地域差を可視化すること,社会経済状況(socioeconomic status:SES),施設要件などとの関連を示すこと,また,診療ガイドラインやITツールができた後でアクセスや質が改善したか否かを事後的に確認することなどが,HSRのテーマとなりうる。

    これらHSRで判明した課題に対して,浮かび上がった潜在的な解決策をもとに,国や自治体は医療政策の一環として手当てを行うことができる。下段にあるように医療計画などの法律に基づいた計画を都道府県が策定する際,国が診療報酬改定を行う際,特定健診・特定保健指導等の法律に基づいた事業を行う際,また厚生労働科学研究(厚労科研)などの補助金事業を行って新たな知見を得ようとする際などに,HSRから得られた知見を参考にすることで,エビデンスに基づいた政策形成(evidence-based policy making:EBPM)ないしエビデンスをふまえた政策形成(evidence-informed policy making:EIPM)を行うことができる。

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