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【識者の眼】「超高齢化社会における敗血症」井上茂亮

No.5187 (2023年09月23日発行) P.65

井上茂亮 (神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野特命教授)

登録日: 2023-08-23

最終更新日: 2023-08-23

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敗血症は、感染症に伴う生体反応が生体内で調節不能な状態となった病態であり、生命を脅かす臓器障害を引き起こします1)

千葉大などが2021年、成人約5000万人のビッグデータを分析し、敗血症における患者数や死亡者数の推計を公表しました2)。それによると、10年からの8年間に敗血症を発症した患者数は約200万人で、このうち36万人が死亡しました。年ごとの推移を見ると、患者数は10年の11万人から17年には36万人に、死者数は10年の2.6万人から17年の6万人にそれぞれ増えていました。一方で、死亡率は10年の25%から17年の18%へと減少していました。患者数と死亡者数が増えた要因は、高齢化が進んだためとみられ、こうした傾向は今後も続いていくとみられています。

高齢者では、酸化ストレスの蓄積、ミトコンドリア異常、テロメアの短縮やDNAの損傷などの分子生物学的な老化現象が生じます。また加齢とともに日常活動性や精神活動の低下、うつ状態、生体防御機能の低下をきたすことが知られています。さらに高齢者では唾液腺分泌低下、咀噛力の低下、嚥下機能の低下、味覚の低下、消化管機能の低下など、様々な生理学的変化により経口摂取量が減少し低栄養になりやすい。このような低栄養は筋肉減弱や骨減少の原因となり、総リンパ球減少を伴う免疫機能、認知機能、糖代謝などに影響を及ぼし、臨床的には緩慢な動作、筋力低下、体重減少、活動性低下、疲労を引き起こします。

このような背景から近年、肺炎などを契機とした敗血症の増加もわが国の高齢化社会において重要な問題です。65歳以上の高齢者は敗血症患者の約60%であり、その死亡者数の約80%を占めており3)、年齢は敗血症患者での死亡率の予後不良因子の1つとして知られています4)。Yendeらは約2000人の敗血症患者を対象とした2つのRCTを解析したところ、ICUを退室した患者の1/3は6カ月後以内に死亡しており、残り1/3は6カ月に何らかの機能障害が残存しADLに障害があることが明らかとなりました5)。すなわち超高齢化社会を迎えた現在、従来のアウトカムであった28日生存率やICU生存率などの短期予後だけではなく、集中治療の長期予後をいかに改善するかが今後の大きな問題といえるでしょう。

【文献】

1)Singer M, et al:JAMA. 2016;315(8):801-10.

2)Imaeda T, et al:Crit Care. 2021;25(1):338.

3)Javadi P, et al:J Surg Res. 2005;128(1):37-44.

4)Martin GS, et al:Crit Care Med. 2006;34(1):15-21.

5)Yende S, et al:Crit Care Med. 2016;44(8):1461-7.

井上茂亮(神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野特命教授)[集中治療]救急敗血症の最新トピックス

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