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A型肝炎[私の治療]

No.5181 (2023年08月12日発行) P.50

四柳 宏 (東京大学医科学研究所附属先端医療研究センター教授)

登録日: 2023-08-12

最終更新日: 2023-08-08

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  • A型肝炎は,A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus:HAV)が肝臓に感染して起こす急性肝炎で,発熱,食欲不振などの全身症状が強いのが特徴である。通常,一過性の経過をとるが,時にALTの再上昇,黄疸の遷延などをみる場合がある。急性肝不全(劇症肝炎)を合併するのは1%程度とされている。

    ▶診断のポイント

    急性肝炎の症状としては食欲低下,全身倦怠感,尿の濃染(黄疸)が共通であるが,A型肝炎の場合は発熱の頻度が他の急性肝炎に比べて高いのが特徴である。

    感染経路も診断の手がかりになる。欧米では冷凍の野菜・果物によるアウトブレイクが報告されているが,日本ではカキを中心とした二枚貝や魚介類を加熱不十分なまま食べたことによるものが多い。2018~19年にかけては男性間性交渉による糞口感染も話題となった1)

    A型肝炎の診断は血清IgM-HA抗体の検出により行うが,急性肝炎の発症早期ではIgM-HA抗体陰性の場合がある。また,低力価のIgM-HA抗体はIgMの上昇する他の疾患でも認められることがある。IgM-HA抗体が陰性~低力価陽性であり,臨床的にA型肝炎が疑われる例では,IgM-HA抗体の再検も考慮する。

    A型肝炎では末梢血に異型リンパ球をしばしば認め,また,上述のように発熱を認める。このためEBウイルスによる伝染性単核球症,サイトメガロウイルスによる肝炎,HIV感染症などが鑑別の対象になる。A型肝炎では咽頭痛,リンパ節腫脹は通常認めないことが鑑別の一助となる。確定診断のためには,これらのウイルス抗原,抗体,遺伝子検査などが必要になる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    A型肝炎の治療は対症療法が中心である。重症例や遷延化例では抗ウイルス薬の投与が予後の改善につながる可能性があるが,急性ウイルス感染症であることもあり,臨床でのエビデンスは乏しい。したがって,治療は通常の急性肝炎と同じように行う。

    急性肝炎で肝機能障害が著しい場合,肝臓における蛋白質,脂質代謝は低下している。オルニチン回路などのアミノ酸代謝経路が障害されている場合,ことに蛋白質の過剰な負荷は肝性脳症につながる可能性がある。したがって,急性肝炎の極期には糖質の補給が中心となる。食欲が低下している場合には,ブドウ糖の点滴を行う。

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