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新規糖尿病治療薬の臨床試験結果をどのように臨床に役立てるべきか [J-CLEAR通信(61)]

No.4789 (2016年02月06日発行) P.49

吉岡成人 (NTT東日本札幌病院副院長/糖尿病内分泌内科診療部長,J-CLEAR評議員)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-27

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  • 2型糖尿病の治療目標は,血糖値を含めた代謝指標を良好に保ち,細小血管障害および大血管障害の発症・進展を阻止して,糖尿病ではない人たちと何ら変わることのないQOL(quality of life)を維持し,寿命を確保することである。長期間にわたる血糖管理が網膜症を代表とした細小血管障害を阻止することは,DCCT(Diabetes Control and Complications Trial),UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study),熊本スタディなどで確認されている。しかし,大血管障害に対する糖尿病治療薬の有効性については十分なエビデンスが示されていない。

    血糖管理と心血管イベント

    2型糖尿病患者において,病初期から厳格な血糖管理をめざすことで心血管イベントや死亡のリスクを有意に低減できる可能性がUKPDSによって示され,20年後には統計学的にも有意な差を示すということでlegacy effectという言葉が生み出された1)。しかし,糖尿病の罹病期間が長く大血管障害のリスクが高い患者や,既に大血管障害を引き起こした患者に対して厳格な血糖管理を試みた大規模臨床試験であるACCORD(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes),ADVANCE(Action in Diabetes and Vascular Disease:Preterax and Diamicron Modified Release Controlled Evaluation),VADT(Veterans Affairs Diabetes Trial)では,SU薬やインスリンによって厳格な血糖管理をめざすことの有用性は確認できなかった。特に,ACCORDでは低血糖による死亡率の上昇が大きな懸念として取り上げられた。

    α-グルコシダーゼ阻害薬を使用したSTOP-NIDDM(Study to Prevent Non-Insulin-Dependent Diabetes Mellitus)は,糖尿病患者ではなく耐糖能異常(impaired glucose tolerance:IGT)患者を対象として糖尿病への移行が減少するか否かを確認した試験であり,脱落率も高いことから,大血管障害の発症を抑止する可能性については欧米においては否定的な意見が多い。さらに,チアゾリジン薬であるピオグリタゾンを使用したPROactive試験では,一次エンドポイントで有意差が得られておらず,心不全も増加していることから,慎重な解釈が望まれる。また,速効型インスリン分泌促進薬であるナテグリニドを用いた,NAVIGATOR(Nateglinide and Valsartan in Impaired Glucose Tolerance Outcomes Research)でも,大血管障害を抑止するという結果は得られなかった。

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