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医学部と医学部受験を取り巻く最新TOPIC[日本医事新報特別付録 医学部進学ガイド「医学部への道2024」 ]

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登録日: 2023-03-01

最終更新日: 2023-03-01

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お子様を医学部に進学させたいと考えている医師家庭は多い。保護者の時代と比較すると、昔よりもすべての医学部が難化していると聞き及び、不安を感じている保護者も多いだろう。
それでも毎年9,400人前後の受験生が医学部合格を果たしている。医学部受験を恐れず、医学部受験を取り巻く情報を入手・理解をして、できるかぎり早くから受験勉強に取り組むことで、医学部合格は可能となる。
(日本医事新報特別付録・医学部進学ガイド「医学部への道2024」の全文はこちらから無料でダウンロードできます)

1. 「東大・京大よりも医学部へ」

保護者の時代には、抜群に成績が良ければ、東大・京大や医学部を目指す人が多かったはずだ。かつて医学部に関しては、一部の私立大学を除き、圧倒的に国公立大学の医学部が難しかった。1990年当時の河合塾のボーダーライン偏差値を見ると、私立大学には偏差値50前後の医学部も複数存在していた。その後、バブルが崩壊した1995年頃から、私立大学を含めたすべての医学部は、徐々に難化していった。

「就職氷河期」「失われた30年」「日本の低成長」「年功序列・終身雇用の崩壊」などを背景に、東大・京大よりも医学部へ進学した方が、一生涯を通して医療という分野で社会貢献ができて、かつ経済的にも豊かな生活ができると考えた受験生が増加したことが、医学部人気を確かにしたといえる。

2. ここ10年で女子の医学部志願者が増加

昭和の頃までは女子が医療関係の仕事に就く場合、薬剤師や看護師を考える割合が高かったように記憶している。そもそも1995年頃までは、女子は4年制大学よりも短期大学に進学する割合が高かった。

男女雇用機会均等法や男女共同参画社会の実現に向けた動きなどにより、女性の社会進出が進んだことで、医学部進学を目指す女子が増加した。特に地方出身の場合は地元に大企業も少ないために、一生涯続けることができる仕事を考える場合は、公務員、教員、そして医師が身近な職業になる。

また、2018年に発覚した医学部を巡る不正入試問題では、それまでの入試で女子が不利になるような選抜を行っていた複数の大学が、文科省から指摘を受けた。これを機会に、すべての医学部で男女平等の入試が実施されるようになったことで女子の医学部進学にスポットが当たった(表1)。

女子の医学部志願者の増加は、少子化が進行しているにもかかわらず、医学部人気の高まりと難化に拍車をかけた。医系専門予備校メディカルラボにおける入校生の男女比も、ほぼ50:50となっており、女子の勢いを感じる。

そこに2020年以降、「別の要素」が加わったことが、さらなる医学部人気を後押しした。

3. コロナ禍が、医学部人気をさらに加速させた

2020年から始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、医学部志願者にも大きな影響を与えた。毎日のようにコロナ禍の下で奮闘する医師などの医療従事者の姿がニュースで流れた。

コロナ禍によって医療の大切さについて実感したことで、医師になろうと考える若者たちが増えた。東日本大震災が発生した2011年頃から、ボランティア活動に対する日本人の意識も変化してきたようにみえる。今の若い人たちには『社会貢献したい』『世の中の役に立ちたい』という強い意識が根底にあるのだろう。

高校の中には、学校行事の1つとしてボランティア活動を取り入れているところもある。また、自分で興味のあるボランティア活動を探して、定期的に活動している人もいる。後で述べる「大学入試改革」の影響もあり、ボランティア活動に取り組む学生は確実に増えている。

4. 2023年度入試も引き続き医学部人気が継続

それでは、2023年度入試における医学部人気は、どのくらいなのだろうか?

図1は、2022年の夏に実施された河合塾全統共通テスト模試における学部系統別の志願者数の前年比を示している。毎年、少子化で新規高校卒業見込者数は減少しているが、医学部は国公立大学で前年比118%、私立大学で112%と大きな伸びとなっている。この背景には、先に述べた「コロナ禍」の影響で、不況の再来を心配する声が多いことがある。これまでも、「バブル崩壊」や「リーマンショック」などの際には、就職氷河期が訪れて、就職できない学生を大量に産む結果となった。このような状況下では、手に職がつき、かつ国家資格を取得できる学部・学科に人気が集まるが、その中でも、医学部医学科の人気は高いと言える。

5. 2020年度から導入された大学入試改革で「主体性」の評価が重視される

大学入試改革は、2020年度から始まった。大学入試において、図2のように新たに「主体性」等の評価が追加されることになった。簡単に説明すると、それまでは、主に英語や数学などの学科試験の成績を用いて合否判定を行う入試だった。

新たに評価基準に加えられた「主体性」等では部活動、生徒会活動、ボランティア活動などが評価される。医学部入試の場合には、この「主体性」等の評価がポイントになる。「主体性」については面接試験で評価するのが一般的だが、医学部医学科は全大学・全選抜方式において面接試験が課されるからだ。

6. 医学部受験を念頭においた「主体性」等の評価を意識した高校生活

2021年度と2022年度入試は、高校生活がコロナ禍のさなかにあったために、「主体性」等の評価を見送る大学もあった。2023年度は高校生活もほぼ通常に戻ったこともあり、大学入試改革以降、最も「主体性」等の評価をする大学が増加すると考えられる。現高3生も高校入学後の2年間は規制の多いコロナ禍にあったために、本格的な導入をためらっている大学も多いが、このような状況下でも、面接試験は実施されており、行動が制約されている中での「主体性」等の評価が行われるだろう。

新型コロナウイルスが収束すれば、「主体性」等の評価を意識した高校生活が求められることになるだろう。何を注視すべきかは一人ひとり異なるが、早い時期から医学部受験を見越した、勉強以外の活動についても考えておきたい(図3)。

7. 面接で重視される勉強以外のこと

医学部入試の面接試験は、就職試験としての意味合いを持つ。面接試験では、①医師になりたいという意欲・自覚、②医師としての適性・資質、③患者や他科の医師、看護師などとのコミュニケーション能力、④将来の医師像─などが評価される。

面接試験には個人面接、集団面接、集団討論、MMI(特定のテーマについての個人面接を複数回、面接担当者やテーマを変えて実施する形式)などの種類があるため、受験する大学に応じた形式で模擬面接を行っておくことが重要だ。その際、大学が「求める人物像」をまとめたアドミッション・ポリシーについて質問される可能性もあるため、大学のWebサイトなどで把握しておきたい。また、建学の精神や基本理念なども理解しておこう。つまり、受験する大学の研究をしておくことが大切だ。

表2は、2022年度の医学部入試における面接試験で、実際に質問された内容だ。どの質問も、あらかじめ各々の大学が公表する情報を見ておかなければ面接の場で回答できないだろう。

最近は、ボランティア活動経験の有無を聞く大学も増えている。広島大のように、「入学前に学習しておくことが期待される内容」として、「ボランティアなどの社会貢献に取り組んだ経験があること」と明記している大学もあり、注意が必要だ。

「最近の気になった医療ニュース」について聞かれることも多く、日ごろからさまざまな医療ニュースに接し、「自分がどう思うか」まで考えておくことも面接試験対策として重要になる。

世の中は急速に変化している。医療においてもAI(人工知能)やリモート医療、ロボット医療や遠隔手術などもクローズアップされている。最新の医療動向を押さえて知識をアップデートしておくことも意識しておきたい。

8. 医学部合格のために必要な学力

2023年度入試において、医学部合格に必要な学力を表3にまとめている。いわゆるボーダーと言われる数値で、河合塾が作成しているものだ。国公立大学は、合格可能性が50%となる共通テストの得点率と前期個別試験の偏差値を示している。共通テストのボーダー得点率は、2022年度に実施された実際の共通テスト本試験の平均点予想値を基に、自己採点に参加した受験生の合否追跡を加味して作成をしている。偏差値は、河合塾の全統模試を基準にしている。

私立大学医学部に合格するためには、最低でも偏差値60以上を必要とする。つまり昔のように偏差値50前後で合格できる医学部はないことが分かる。ごく一部のトップクラスの受験生を除いては、滑り止めとなる私立大学はないと考えて良い。

参考までに医学部以外の難関大学のボーダーを見ていただければ、医学部の難しさがどのくらいか分かるだろう(表4)。

9. 医学部6年間の学費

学費が気になる保護者も多いだろう。私立大学よりも国公立大学の学費の方が低いことは昔から変わらない。国立大学の6年間の学費総額は、約350万円となる。公立大学の学費は、都道府県によって異なるが、おおよそ国立大学に近い。

さて私立大学は、どうだろうか? 私立大学全31大学の6年間総学費の平均は、約3200万円となる。大学によって学費は異なるが、1850万円から4737万円までと大きな開きがある。

表5は、学費の安い大学ベスト10である。大学の学費とボーダーライン偏差値はある程度の相関関係があるが、簡単に合格できる大学は皆無である。

昔は、何年も浪人を重ねて志望大学を目指す浪人生も多く存在したが、今は、少しでも早く医師になりたいと考える受験生とその保護者が多いため、私立大学医学部のボーダーライン偏差値も、昔と比較すると大幅にアップする結果となった。

10. ハイレベルな競争となる医学部入試は、早期からの過去問演習がカギ!

医学部合格は「過去問演習に始まり、過去問演習に終わる」と言っても良い。よって、先に述べたようにできる限り早く志望校を決めて、志望校の過去問を解いてみて出題傾向を把握し、学習計画を立てる。ある程度、志望校合格に必要な学力が身についたら、過去問演習に取りかかることが大切だ。過去問演習は早く取りかかるに越したことはない。医学部の現役合格率が高い高校は、中高一貫校が多く、受験で必要とされる各科目の勉強を高2生の3学期頃までに終える。高3生からは、苦手科目克服に時間を割いたり、過去問演習に専念できるため、一般的な授業進度の高校よりも、中高一貫校は圧倒的に有利となる。

11. 未履修分野の勉強を早期に終えたい

これから医学部を目指す高校生は入試直前まで、どのようなことに注意して勉強を進めたらいいのだろうか。学年別勉強法のモデルパターンの図を表6にまとめているので参考にしてもらいたい。

まず、高1、高2生は、合否を左右するといわれる英語と数学に比重を置いて勉強しておき、基礎力を養うとともに苦手分野を克服しておきたい。先に述べたように、大学入試改革では「主体性」等も評価項目に加わったため、部活動や生徒会活動、校外のボランティア活動なども忘れてはならない。

数学や理科では教科書の後半の分野からの出題も多い。数学の「積分」、物理の「電磁気」「原子」、化学の「高分子化合物」、生物の「進化と系統」などだ。高3の早い時期に未履修分野の学習を終え、過去問演習に入っておきたい。

保護者の時代と比較すると、大学入試は大きく変わったと言ってよいだろう。今回は省略したが、多くの大学が推薦入試(正式には学校推薦型選抜)や総合型選抜(AO入試)を実施している。地域枠選抜を設けている大学も多い。医学部入試は、必要な入試情報の入手も大切になることを忘れてはならない。

12. 自分の学力特性に合った志望校選択が合格率を上げる

受験校を選択する際、大きく7つの項目が基準になる。①模擬試験の志望校判定、②大学のブランド、③保護者など近親者の出身校、④家庭の経済状況、⑤地元の大学(地域枠などを含む)、⑥カリキュラムや大学の特徴(アドミッション・ポリシーなど)、⑦合格可能性─だ。受験校を選定する際に、受験生は模試の志望校判定やボーダーライン偏差値だけにとらわれないようにして欲しい。特に⑥のカリキュラムや大学の特徴、⑦の合格可能性を十分に考慮して欲しい。

⑥について、大学の特徴はアドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーなどに表れている。アドミッション・ポリシーに記載された「大学の求める人物像」を意識した志望校選定を行うことは大切だ。その上で、⑦の「合格可能性」については、一般選抜の場合、自分の学力特性と、大学の入試問題(難度、出題形式、問題量、配点比率など)をマッチングさせ、さらに、大学ごとに異なる合格最低点(各大学公表)を意識しながら受験校を決定するのがいいだろう。

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