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【識者の眼】「どうなる緊急避妊薬のOTC化」稲葉可奈子

No.5157 (2023年02月25日発行) P.62

稲葉可奈子 (公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)

登録日: 2023-02-13

最終更新日: 2023-02-13

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みなさまはじめまして、産婦人科専門医の稲葉可奈子と申します。1年間連載させて頂きます、どうぞよろしくお願い申し上げます。1回目に何を取り上げようか考えたのですが、ちょうど2023年1月にパブリックコメントが募集されていた緊急避妊薬のOTC化について考えてみたいと思います。

この問題は2017年から議論が開始され、実は同年にもパブコメが実施されています。賛成320件、反対28件と、賛成意見が大多数でしたが、性教育の遅れや悪用・乱用への懸念などからOTC化は見送られました。パブコメはそもそも法案への意見を集めるもので、賛否を問うための制度ではないので、パブコメの結果がそのまま反映されるわけではないのですが、世論に反して5年以上にわたり議論が膠着しています。

緊急避妊薬のOTC化の議論がなぜこんなにも時間を要しているのでしょうか。

緊急避妊薬というのは、何らかの事情で避妊することができなかった性交渉のあと72時間以内に内服することで避妊効果が期待されます。妊娠阻止率は24時間以内の内服で95%、48時間以内で85%、72時間以内で58%と、避妊のためには早く内服することが重要です1)。早く内服するためにはアクセスの良さが大事で、受診が1つのハードルとなっています。その点だけを考えると、理論的にはOTC化するほうが良いのですが、アクセスが良くなると、「アフターピル(緊急避妊薬)を飲めば(避妊しなくても)いいよね?」という輩が必ず出てきます。

まだOTC化していない現状でも、昨夏にプロ野球選手が毎回避妊をせず、女性にアフターピルを飲ませていて、結局妊娠させてしまった、という話がありました。残念なことに、「アフピル飲むから(ゴムつけないで)大丈夫」というセリフが漫画やドラマで散見されます。

アクセスが良くなりさえすればそれでOKではなく、女性のためのアクセス改善のはずが、女性が被害を被ることになりかねない、という点は忘れてはならず、そうならないようにするための仕組みが必要です。

だからといって、性教育が不十分だから避妊薬をOTC化するのは早い、というのは理にかなっておらず、並行して進めていくべきです。

今回のパブリックコメントを受けて、緊急避妊薬OTC化の議論が建設的に前進することを一産婦人科医として期待します。

【文献】

1)Lancet. 1998;352(9126):428-33.

稲葉可奈子(公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)[避妊薬][性教育]

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