株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

福島第一原発事故の健康への影響  【被ばくではなく過剰な避難ががんを引き起こす】

No.4825 (2016年10月15日発行) P.54

中川恵一 (東京大学医学部附属病院放射線科准教授)

登録日: 2016-10-14

最終更新日: 2016-10-14

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

福島第一原発事故による一般住民の被ばく量は非常に少なく,とりわけ内部被ばく量はほぼゼロと言える。福島県産の米や牛肉は全数調査が実施されており,欧米の1/12以下の厳しい基準を超えたものはない状況であるため,当然と言える。外部被ばくはゼロとは言えないが,ほぼ全員が3ミリシーベルト/年以内にとどまっている。

しかし,事故から5年以上が経過したにもかかわらず,いまだに10万人近い避難者がおり,その健康状態は悪化の一途をたどっている。特にがん罹患リスクが20%も高くなる糖尿病患者が増加しており,「がんを避けるための避難が,結果的にがんを増やす」という結末が危惧される。今後5~10年で,福島でがん罹患者数が増える可能性は高いが,これは被ばくによってではなく,過剰な避難によって起こると言える。

チェルノブイリでは小児甲状腺癌が増えたが,福島でも子どもの甲状腺癌が130人以上見つかっている。しかし,チェルノブイリとは患者の年齢分布や遺伝子変異が異なり,線量依存性もみられない。事故が起きた2011年から,多数が小児甲状腺癌と診断されていることからもわかるように,綿密な検査により,もともと存在する「自然発生型」の甲状腺癌が発見されているにすぎない。韓国では最近,乳癌検診と一緒に甲状腺癌検診を行うようになったことで,甲状腺癌の発見が20年で15倍にも増えているが,がんによる死亡者は減っていない。

福島では,子どもを対象に甲状腺癌検診を行っているが,再考が必要であろう。福島の事故は,放射線とがんを正しく理解することの重要性を教えてくれている。

【解説】

中川恵一 東京大学医学部附属病院放射線科准教授

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top