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【識者の眼】「患者に補完代替療法について尋ねたことはありますか?」大野 智

No.5142 (2022年11月12日発行) P.63

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2022-11-02

最終更新日: 2022-11-02

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先日、健康食品をテーマに患者向けの講演会をする機会を頂いた1)。質疑応答で参加者の声を伺うと、患者から医師に健康食品をはじめとした補完代替療法について質問することは、想像以上にハードルが高いことなのだと気が付かされた。厚生労働省研究班が実施した補完代替療法の実態調査では、利用している患者の6割が医師に相談していない2)。その理由として「質問されなかったから」「話す必要がないと思った」「話しても理解されないと思った」「関心のないことだと思った」などが挙げられている。患者からは「そもそも自分の病気や治療のことも、忙しそうにしている医師に質問するのは気がひけてしまうのに、健康食品のことなんて、とても聞くことができない」との声が多く聞かれる。そうなると、患者側に一方的に問題があるとは考えにくく、医師側にも問題があると考えなければならない。

米国では10年以上前から、補完代替療法について「Time to Talk」と銘打ち、医師と患者とのコミュニケーションを促すためのキャンペーンに取り組んでいる3)。患者に向けては「医師に相談するように」、医師に向けては「患者に尋ねるように」と、それぞれにメッセージを伝え、問診票やポスターなども作成されている。

しかし、米国と異なり日本では医学教育で補完代替療法について学ぶ機会はほとんどない。そのため、医師の心理として、知識に乏しい補完代替療法について患者に尋ねても答えに窮してしまい、患者の前で恥をかいてしまうのでは……と躊躇しているのかもしれない。さらには、患者から補完代替療法に関する質問は受け付けないといったオーラを漂わせてしまっていることはないだろうか?

ただ、そのような心配は杞憂であることが多い。患者からの質問に対して、即座に回答できなくても、調べた上で後日改めて説明する約束をすることで、筆者自身、患者からクレームを言われたことは一度もない。また、薬と健康食品との相互作用については薬剤師、普段の食事については栄養士、といった具合に適切な相談窓口につなげる役割を医師が担うことの重要性も、Time to Talkキャンペーンでは触れられている。さらに、過去の記事(No.5128)でも紹介したが、患者対応においては、健康食品のことだけでなく、利用してみようと思ったきっかけ、目的や理由についても丁寧に聞き取ってもらいたい。

【文献】

1)石川県がん安心生活サポートハウス. つどい場はなうめ公開講座 第6回「医療情報シリーズ」.

   https://jp.bloguru.com/hanaume/454755

2)Hyodo I, et al:J Clin Oncol. 2005;23(12):2645-54.

3)National Center for complementary and alternative medicine “Time to Talk”.

   https://newsinhealth.nih.gov/2011/02/time-talk

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法

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